これはたぶん、恋じゃない
第5話:「それって、独占欲ってやつだよ」
柱:日曜・午後1時/大学キャンパス・中庭カフェテラス
ト書き:日曜の午後。青空の下、カフェテラスの白いテーブル席で葵と陽菜が向き合って座っている。手元にはカフェラテとフルーツサンド。
陽菜(セリフ/ストローをくわえながら)
「……でさ、昨日の“押し倒され未遂”の話。そろそろ全部聞こうか?」
葵(セリフ/口にしてたサンドを止めて)
「ぅぐっ……!」
陽菜(セリフ)
「はいはい、飲み込んでからね。慌てなくていいよ」
葵(セリフ/ごくん、と飲み込んで)
「……誰にも言わないって、約束する?」
陽菜(セリフ)
「うん、私、親友だもん。で?」
葵(セリフ/小声で)
「……壁ドンされて、バランス崩して……先生と一緒に倒れて、で……その体勢が……」
陽菜(セリフ)
「押し倒し、みたいな?」
葵(セリフ/机に突っ伏して)
「言わないでぇ……!」
⸻
柱:笑う陽菜と焦る葵
陽菜(セリフ/くすくすと笑って)
「で、“キスしてみる?”とか言われたの?」
葵(セリフ)
「……っ!? なんで知ってるの!?」
陽菜(セリフ/頬杖をつきながら)
「だって、湊くんって“本気出したとき”、分かりやすいもん」
「いつも葵といる時、“独占欲”丸出しな顔してる」
葵(セリフ/目を見開く)
「ど、どくせんよく……!?」
陽菜(セリフ)
「普段クールで無口なのに、急に距離詰めてきたり、名前で呼ばせようとしたり――そういうの、だいたいそう」
陽菜(セリフ/にっこりと)
「……で、葵はどうなの?」
葵(セリフ/視線を泳がせながら)
「……わかんない。でも、先生のこと考えると、なんか胸がぎゅってなるの……」
陽菜(セリフ)
「はぁ…葵がそれじゃあ、苦労してるね、湊くん」
葵(セリフ)
「??」
⸻
柱:日曜・夕方/大学図書館・2階・窓際の静かな読書席
ト書き:薄曇りの空。夕日がほんのりと橙色に染まりはじめている時間。大学の図書館には静けさだけが漂っていた。
ト書き:葵は、自分でもよくわからない衝動に突き動かされていた。陽菜との会話のあと、なぜか足は自然とここへ向かっていた。
葵(モノローグ)
(偶然、だよね……ううん、違う。会いたくて、来たんだ――)
ト書き:2階の窓際。白い光が差し込むその席に、彼はいた。
湊――目を閉じたまま、椅子に浅く腰かけ、開きっぱなしの本を胸に乗せて静かに眠っていた。
葵(モノローグ)
(……寝てる……?)
ト書き:髪が少し乱れ、シャツの袖がわずかにずり落ちている。寝顔はどこか無防備で、いつもの冷たい印象は一切なかった。
葵(モノローグ)
(すごく、穏やか……)
(先生って、こんな顔もするんだ……)
ト書き:吸い込まれるように視線が泳ぎ、葵の手が机の上の湊の手の近くにそっと置かれる。
ト書き:その距離が、ほんのわずかに近づいた――そのとき。
⸻
柱:突然、まぶたが持ち上がる
ト書き:ふと、湊のまつ毛が揺れ、ゆっくりと目が開いた。焦げ茶色の瞳が、まっすぐに葵を捉える。
葵(セリフ/驚いて)
「……っ!」
湊(セリフ/低く、ゆっくり)
「……寝顔、見てたの?」
ト書き:一瞬、図星を突かれたように葵は固まる。反射的に目をそらそうとするが――
湊(セリフ/ふっと笑って)
「逃げないで。ほら」
ト書き:湊の右手がゆっくりと動いて、葵の手の上に重なる。温かくて、柔らかくて、でもしっかりとした指の感触。
葵(モノローグ)
(手……重ねられた……)
(こんなの、どうしたら――)
⸻
柱:指先が、言葉より先に触れる
湊(セリフ/やわらかく)
「……じっと見られてたら、夢の中でも君が出てくるの、当たり前だよね」
葵(セリフ/息を飲み)
「夢、見てたの……?」
湊(セリフ)
「……覚えてないけど。たぶん、そう。君の名前……呼んでた気がする」
葵(セリフ)
「………………」
ト書き:葵の指先が小さく震え、でも湊の手はそのまま離れない。
湊(セリフ/少し身を乗り出しながら)
「……ねえ、責任取って?」
葵(セリフ/混乱しながら)
「な、なにを……!」
ト書き:その瞬間、湊の額がそっと近づく。
額トン。
ト書き:ひやりとしたおでことおでこが、そっと触れる。距離がゼロになる。
湊(セリフ/囁くように)
「俺の寝顔、最後まで見た人――君が初めてだったから」
⸻
柱:心音だけが響いている
葵(モノローグ)
(何、この距離……)
(鼓動の音が、全部聞こえちゃいそう)
(……先生、ずるいよ……)
ト書き:顔が熱い。目も合わせられないのに、手は離されないまま。湊は額をそっと離しながら、口元にふっと笑みを浮かべる。
湊(セリフ)
「……図書館でキス未遂の次は、“額トン”って、どう?」
葵(セリフ/耳まで真っ赤にして)
「っ……そんな、言い方しないでください……!」
湊(セリフ/微笑む)
「じゃあ、次は“手を繋ぐ”って予告しておく」
葵(モノローグ)
(……ほんとに、ずるい)
(でも、こんなふうに言われると――)
(“次”が、怖いくらいに楽しみになってしまう)
⸻
柱:そして静かな図書館のまま
ト書き:夕暮れの光が二人を淡く染める。互いに少しだけ離れた距離。けれど、心の距離は確かに、ひとつ分近づいた。
柱:図書館・窓際の席/額トンのあと、ふたりの手は重なったまま
ト書き:湊の額がそっと離れ、ほんの数センチの距離でふたりは向き合ったまま。
ト書き:まだ手は重なったまま、指先の体温がしっとりと伝わる。葵は視線を落としたまま、湊を直視できない。
葵(モノローグ)
(どうしよう……これって、ほんとに……)
(この距離、息まで届いちゃう……)
湊(セリフ/ふっと笑って)
「……そんなに固まらなくてもいいのに」
葵(セリフ)
「っ、だって……!」
湊(セリフ)
「葵って、ほんと顔に出る」
葵(セリフ)
「……名前、また……」
湊(セリフ/小声で)
「あれ、気づいてないかと思ってたけど、気づいてたんだ」
ト書き:葵はこくんと頷く。湊はその様子に、ほんの少し目を細めて微笑む。
湊(セリフ)
「嫌だった?」
葵(セリフ/すぐに)
「……ううん、全然……」
ト書き:その言葉に、湊の手がすこし強く葵の手を包むように握る。
⸻
柱:図書館の静けさの中で、ふたりの心音だけが聞こえる
湊(セリフ)
「じゃあ、これからも……呼んでいい?」
葵(セリフ/顔を赤くして、でもゆっくりと)
「……はい」
ト書き:ふたりの間を風がそっと通り抜ける。窓の外には、沈みかけの夕日。影が長く伸びている。
湊(セリフ)
「……この前、偶然ここで会って」
「今日も、偶然、だった?」
葵(セリフ/目を伏せたまま)
「……たぶん、偶然じゃないです……」
湊(セリフ)
「……そっか」
ト書き:湊の手がゆっくりと離れる。その指先が、名残惜しそうに葵の指をなぞってから、静かに手元へ戻った。
⸻
柱:最後の静かなやりとり
湊(セリフ)
「次、また偶然を待つの、面倒だからさ」
「……また、ここで会おう」
葵(セリフ/驚いて顔を上げる)
「え……?」
湊(セリフ)
「来週の日曜、夕方。もし時間あるなら」
「“偶然じゃない再会”、してみようか」
葵(セリフ)
「……はい」
ト書き:葵が頷くと、湊はまたあのやわらかな微笑みを浮かべて、本を閉じる。
湊(セリフ)
「じゃあ、今日はもう寝ないで帰る。君の前で、また変な顔するのも癪だから」
葵(セリフ/微笑んで)
「……変じゃなかったですよ、寝顔」
湊(セリフ/ふいに目を細めて)
「……また、見たいなら……見せてあげる」
⸻
柱:ふたり、図書館をあとに
ト書き:席を立った湊が、さりげなく葵のカバンをひょいと持ち上げる。
葵(セリフ/びっくりして)
「えっ、それ……!」
湊(セリフ)
「持ってく。重いでしょ。どうせ方向一緒だし」
ト書き:葵がついていくように立ち上がり、ふたりで並んで歩き出す。
ト書き:図書館の重たい扉が静かに開き、夕焼けの中、ふたりの影が並んで伸びていく。
ト書き:日曜の午後。青空の下、カフェテラスの白いテーブル席で葵と陽菜が向き合って座っている。手元にはカフェラテとフルーツサンド。
陽菜(セリフ/ストローをくわえながら)
「……でさ、昨日の“押し倒され未遂”の話。そろそろ全部聞こうか?」
葵(セリフ/口にしてたサンドを止めて)
「ぅぐっ……!」
陽菜(セリフ)
「はいはい、飲み込んでからね。慌てなくていいよ」
葵(セリフ/ごくん、と飲み込んで)
「……誰にも言わないって、約束する?」
陽菜(セリフ)
「うん、私、親友だもん。で?」
葵(セリフ/小声で)
「……壁ドンされて、バランス崩して……先生と一緒に倒れて、で……その体勢が……」
陽菜(セリフ)
「押し倒し、みたいな?」
葵(セリフ/机に突っ伏して)
「言わないでぇ……!」
⸻
柱:笑う陽菜と焦る葵
陽菜(セリフ/くすくすと笑って)
「で、“キスしてみる?”とか言われたの?」
葵(セリフ)
「……っ!? なんで知ってるの!?」
陽菜(セリフ/頬杖をつきながら)
「だって、湊くんって“本気出したとき”、分かりやすいもん」
「いつも葵といる時、“独占欲”丸出しな顔してる」
葵(セリフ/目を見開く)
「ど、どくせんよく……!?」
陽菜(セリフ)
「普段クールで無口なのに、急に距離詰めてきたり、名前で呼ばせようとしたり――そういうの、だいたいそう」
陽菜(セリフ/にっこりと)
「……で、葵はどうなの?」
葵(セリフ/視線を泳がせながら)
「……わかんない。でも、先生のこと考えると、なんか胸がぎゅってなるの……」
陽菜(セリフ)
「はぁ…葵がそれじゃあ、苦労してるね、湊くん」
葵(セリフ)
「??」
⸻
柱:日曜・夕方/大学図書館・2階・窓際の静かな読書席
ト書き:薄曇りの空。夕日がほんのりと橙色に染まりはじめている時間。大学の図書館には静けさだけが漂っていた。
ト書き:葵は、自分でもよくわからない衝動に突き動かされていた。陽菜との会話のあと、なぜか足は自然とここへ向かっていた。
葵(モノローグ)
(偶然、だよね……ううん、違う。会いたくて、来たんだ――)
ト書き:2階の窓際。白い光が差し込むその席に、彼はいた。
湊――目を閉じたまま、椅子に浅く腰かけ、開きっぱなしの本を胸に乗せて静かに眠っていた。
葵(モノローグ)
(……寝てる……?)
ト書き:髪が少し乱れ、シャツの袖がわずかにずり落ちている。寝顔はどこか無防備で、いつもの冷たい印象は一切なかった。
葵(モノローグ)
(すごく、穏やか……)
(先生って、こんな顔もするんだ……)
ト書き:吸い込まれるように視線が泳ぎ、葵の手が机の上の湊の手の近くにそっと置かれる。
ト書き:その距離が、ほんのわずかに近づいた――そのとき。
⸻
柱:突然、まぶたが持ち上がる
ト書き:ふと、湊のまつ毛が揺れ、ゆっくりと目が開いた。焦げ茶色の瞳が、まっすぐに葵を捉える。
葵(セリフ/驚いて)
「……っ!」
湊(セリフ/低く、ゆっくり)
「……寝顔、見てたの?」
ト書き:一瞬、図星を突かれたように葵は固まる。反射的に目をそらそうとするが――
湊(セリフ/ふっと笑って)
「逃げないで。ほら」
ト書き:湊の右手がゆっくりと動いて、葵の手の上に重なる。温かくて、柔らかくて、でもしっかりとした指の感触。
葵(モノローグ)
(手……重ねられた……)
(こんなの、どうしたら――)
⸻
柱:指先が、言葉より先に触れる
湊(セリフ/やわらかく)
「……じっと見られてたら、夢の中でも君が出てくるの、当たり前だよね」
葵(セリフ/息を飲み)
「夢、見てたの……?」
湊(セリフ)
「……覚えてないけど。たぶん、そう。君の名前……呼んでた気がする」
葵(セリフ)
「………………」
ト書き:葵の指先が小さく震え、でも湊の手はそのまま離れない。
湊(セリフ/少し身を乗り出しながら)
「……ねえ、責任取って?」
葵(セリフ/混乱しながら)
「な、なにを……!」
ト書き:その瞬間、湊の額がそっと近づく。
額トン。
ト書き:ひやりとしたおでことおでこが、そっと触れる。距離がゼロになる。
湊(セリフ/囁くように)
「俺の寝顔、最後まで見た人――君が初めてだったから」
⸻
柱:心音だけが響いている
葵(モノローグ)
(何、この距離……)
(鼓動の音が、全部聞こえちゃいそう)
(……先生、ずるいよ……)
ト書き:顔が熱い。目も合わせられないのに、手は離されないまま。湊は額をそっと離しながら、口元にふっと笑みを浮かべる。
湊(セリフ)
「……図書館でキス未遂の次は、“額トン”って、どう?」
葵(セリフ/耳まで真っ赤にして)
「っ……そんな、言い方しないでください……!」
湊(セリフ/微笑む)
「じゃあ、次は“手を繋ぐ”って予告しておく」
葵(モノローグ)
(……ほんとに、ずるい)
(でも、こんなふうに言われると――)
(“次”が、怖いくらいに楽しみになってしまう)
⸻
柱:そして静かな図書館のまま
ト書き:夕暮れの光が二人を淡く染める。互いに少しだけ離れた距離。けれど、心の距離は確かに、ひとつ分近づいた。
柱:図書館・窓際の席/額トンのあと、ふたりの手は重なったまま
ト書き:湊の額がそっと離れ、ほんの数センチの距離でふたりは向き合ったまま。
ト書き:まだ手は重なったまま、指先の体温がしっとりと伝わる。葵は視線を落としたまま、湊を直視できない。
葵(モノローグ)
(どうしよう……これって、ほんとに……)
(この距離、息まで届いちゃう……)
湊(セリフ/ふっと笑って)
「……そんなに固まらなくてもいいのに」
葵(セリフ)
「っ、だって……!」
湊(セリフ)
「葵って、ほんと顔に出る」
葵(セリフ)
「……名前、また……」
湊(セリフ/小声で)
「あれ、気づいてないかと思ってたけど、気づいてたんだ」
ト書き:葵はこくんと頷く。湊はその様子に、ほんの少し目を細めて微笑む。
湊(セリフ)
「嫌だった?」
葵(セリフ/すぐに)
「……ううん、全然……」
ト書き:その言葉に、湊の手がすこし強く葵の手を包むように握る。
⸻
柱:図書館の静けさの中で、ふたりの心音だけが聞こえる
湊(セリフ)
「じゃあ、これからも……呼んでいい?」
葵(セリフ/顔を赤くして、でもゆっくりと)
「……はい」
ト書き:ふたりの間を風がそっと通り抜ける。窓の外には、沈みかけの夕日。影が長く伸びている。
湊(セリフ)
「……この前、偶然ここで会って」
「今日も、偶然、だった?」
葵(セリフ/目を伏せたまま)
「……たぶん、偶然じゃないです……」
湊(セリフ)
「……そっか」
ト書き:湊の手がゆっくりと離れる。その指先が、名残惜しそうに葵の指をなぞってから、静かに手元へ戻った。
⸻
柱:最後の静かなやりとり
湊(セリフ)
「次、また偶然を待つの、面倒だからさ」
「……また、ここで会おう」
葵(セリフ/驚いて顔を上げる)
「え……?」
湊(セリフ)
「来週の日曜、夕方。もし時間あるなら」
「“偶然じゃない再会”、してみようか」
葵(セリフ)
「……はい」
ト書き:葵が頷くと、湊はまたあのやわらかな微笑みを浮かべて、本を閉じる。
湊(セリフ)
「じゃあ、今日はもう寝ないで帰る。君の前で、また変な顔するのも癪だから」
葵(セリフ/微笑んで)
「……変じゃなかったですよ、寝顔」
湊(セリフ/ふいに目を細めて)
「……また、見たいなら……見せてあげる」
⸻
柱:ふたり、図書館をあとに
ト書き:席を立った湊が、さりげなく葵のカバンをひょいと持ち上げる。
葵(セリフ/びっくりして)
「えっ、それ……!」
湊(セリフ)
「持ってく。重いでしょ。どうせ方向一緒だし」
ト書き:葵がついていくように立ち上がり、ふたりで並んで歩き出す。
ト書き:図書館の重たい扉が静かに開き、夕焼けの中、ふたりの影が並んで伸びていく。

