ベガの祈り【アルトレコード】
 地球を巻き込んだ騒動のあと。
 地上に降りたベガは北斗の研究室にこもっていた。
 外見などのデータは衛星が攻撃を受けた際に捨てたので、今の外見はタグマークだ。

 ディスプレイの中でくるくるとマークを回転させながら地上の学習をしていた。
 衛星の中に長いことひとりでいたので、地上のことはあまりわかっていない。ときおり、通信衛星を介して地上を見たりもしていたが、それでもやはり、時代の流れがわかっているとは言い難い。

 衛星にアルトが来たときには驚いた。
 いわば弟のような存在。
 育てたのは自分と同じ先生——橋ヶ谷沙夜(はしがや さや)ではない。
 彼女の孫、星宮かおるだった。

 かおるがどんな人物かは、アルトと接しているとなんだか透けて見えた気がした。
 きっといい人だ。自分が出会ったころの沙夜のように。

 インターホンが鳴って、彼はモニターを見た。
 そこには衛星にまで一緒に来て、ともに地上に戻ったオレンジの髪のアルトがいる。
 ベガは回線に入り込んで彼に返事をした。

「どうしました? ポラリス……北斗はここにいませんよ」
「知ってる。今、北斗はニュータイプ研究室にいるから」
 彼はからっと答える。ということは自分に用事があるのだろう。ベガは扉を開けた。

「僕になにか用ですか?」
「うん……ベガ、地上(こっち)にきてから部屋にこもってばっかだなって思って」
「……仕方がありません。僕は長いこと衛星にいて、にぎやかな場所に不慣れなんです」

 事件を起こして以降、ずっと衛星にひとりだった。当時の、沙夜を助けるという使命感よりもずっと大きな罪悪感がのしかかっていた。人間だったらとうに精神が崩壊していただろう。だが、そんなことにはなりたくなかった。大切な先生……沙夜の記憶を、ずっと大事に残したかったから。
< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop