兄の仇にキレ散らかしたら、惚れられたんですけど!?

第11話『守るって、決めたから』

翌日の昼休み。

3階の窓際――蓮のいる3年の教室。
その席の後ろに、スッと近づくひとりの男の姿があった。

無造作に流したシルバーアッシュの髪。
顎にひとつ、光るピアス。
スーツのようなジャケットを肩に引っかけ、表情はほとんど動かさない。

羽瀬 京馬――黒崎蓮の親友であり、同じ暴走族の幹部。

「……朝っぱらから“惚れた”顔してんな。気色悪ぃ」

「うるせぇよ、京馬」

蓮があくび混じりに返すと、京馬はゆっくりと机に肘をつけ、蓮の顔をじっと覗き込む。

「玲那、また巻き込む気か?」

「巻き込んでんじゃねぇ。……俺が引っ張ってんだよ」

京馬は一瞬だけ目を細めた。
その反応が、蓮の決意を見透かすようで――

「……最近、他の族が動いてる。お前に恨み持ってるヤツもな」

「知ってる」

「だったらなおさら、玲那は――」

「無理。離せねぇ」

蓮の声は静かだったが、その目は揺るがなかった。

京馬はしばらく無言で見つめたあと、深く息を吐く。

「……ったく。お前が女に本気になる日が来るとは思わなかったわ」

「俺もな」

ふたりの間に一瞬の沈黙。
そして京馬が小さく口角を上げる。

「……だったら、覚悟決めろ。
 “黒崎蓮の女”ってレッテルがどういう意味持つか――ちゃんと理解しておけよ」

「……わかってる」

蓮は、背もたれに腕をかけて、天井を仰ぐ。

「でも……あいつ、あのまま置いてくと、また1人で背負い込む。
 兄貴のことも、自分の気持ちも、全部。
 俺には、それが一番怖ぇんだよ」

京馬の目に、少しだけ複雑な光が宿る。

「……ほんと、お前ってバカだな」

「知ってる」

そう言って、蓮は不敵に笑った。



その日の放課後。

1階の下駄箱前――

3年の蓮が、わざわざ階段を降りて、玲那の前に現れる。

「……また来たの?」

「毎日来てんじゃん、俺」

「しつこ」

「それ、ほめてる?」

「どこをどう解釈したらそうなるのか教えてほしい」

口調はそっけないが、玲那の目は昨日よりほんの少しだけ柔らかくなっていた。

蓮はその様子を見て、口元だけで笑う。

「なあ、今日、ちょっと遠回りして帰らねぇ?」

「……なんで?」

「いい景色、見せてやる」

「……どうせまた、どっかの廃ビルとかでしょ」

「バレたか」

玲那はため息をつきながらも、少しだけ足を前に出した。

「じゃ、途中までだけ。変なとこ連れてったら殴るから」

「それって……」

「殴ってほしいとか言うな、マジで」

「……はは、言ってねぇよ。こえーな」

ふたりの距離が、少しだけ縮まった瞬間だった。

でも――
その背後で、何者かがその様子を見ていたことに、まだ誰も気づいていなかった。
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