兄の仇にキレ散らかしたら、惚れられたんですけど!?
第7話『そんなの、知らなかったってば』
「……っ、バカじゃないの!?!?!」
あの言葉が耳に焼きついて離れない。
“こいつは、俺の女だ。手ぇ出すな”
(なんで……あんな場所で……っ)
ざわついた空気、幹部たちの視線、見知らぬ男たちのざらついた笑い声。
玲那はその場から逃げ出すように、工場跡の壁際を走っていた。
胸の奥がずっとザワザワしてる。
なにが起きたのか、まだ頭が整理できない。
(あいつ……“あんな顔”するんだ……)
学校ではいつもニヤニヤしてしつこいくらい近づいてきてうるさくて……でもどこか放っておけないような不思議なオーラがあって。
だけど――さっきの黒崎蓮は、違った。
眼光は鋭くて、立ってるだけで威圧感があって、
みんなが自然と従ってしまうような“支配力”を持ってた。
(あれが……黒崎蓮の“本当の顔”なんだ)
それを見て、怖いと思った。
……でも。
(なんで、少しだけ……格好いいって思ったの?)
自分の中の“矛盾”が怖かった。
そしてなにより――
(あたしの兄を……)
(――晴翔を、殺したのはあいつだって、忘れてないのに)
握りしめた拳が、震える。
その時、背後からゆったりとした足音。
「……泣くには、まだ早いわよ」
振り返ると、そこに立っていたのは――嶺岸 凛。
夜風に革ジャンがなびく。
缶コーヒーを手にしたまま、凛は無言で玲那の隣に腰を下ろした。
「……泣いてないし」
「ふふ。言い方も似てる。あんたの兄と」
「……さっきから、それ……兄のこと、知ってるって……どういう意味?」
凛は缶をプシュ、と開けた。
「晴翔とは……昔、ちょっとだけ特別だった。
あんたがまだ子どもで、覚えてない頃の話よ」
「……特別って、どういう……」
「――その答えは、あんたが自分で探しな」
玲那は黙るしかなかった。
凛は煙草を咥えながら、ぽつりと言葉を落とす。
「蓮はね、“大事なもん”には不器用なのよ。
雑に見せかけて、本当は一歩も踏み込めない。怖いんだと思う」
「……そんなふうに、見えなかったけど」
「それはあんたが“素人”だから。
本当の“夜叉連の蓮”は、あたしたちしか知らない」
玲那の手の中に、まだ蓮が握ってきた“温もり”が残っている。
心がざわつく。
――なにか、見てはいけないものを見てしまったような。
「蓮に惹かれてんの?」
「……わかんない」
「正直でよろしい」
「……でも、許せないよ。
晴翔を殺したって噂、本当かどうかもあたしは知らない。でも、蓮はなにも言わないし、誰も真実を教えてくれないし……」
「それでも、知りたい?」
「……知りたい。
知って、もし本当にそうだったら――あたし、絶対に許さない」
凛は一瞬、玲那の横顔をじっと見つめてから――微笑んだ。
「それでいい。あんたは、あんたのままでいな」
その時、影がふたつ――
「……いた」
蓮の声がした。
ゆっくりと、暗がりから姿を現したのは、蓮とその隣にいた羽瀬 京馬だった。
「……まったく、逃げ足だけは早ぇな」
「逃げてない」
「嘘つけ。顔、思いっきり赤ぇし」
「うるさい……っ」
蓮が凛に目線を向けると、彼女は立ち上がりながら言った。
「はいはい。こっから先は、若いもんでどーぞ。玲那、また今度、ゆっくり話そ」
「……うん」
「ほら!あんたも行くのよ!」
「っ…おい!!痛ぇから耳掴むな凛!!」
凛がズルズルと京馬の耳を引っ張りながらその場を去る。
その様子に少しだけ頬が緩んだ。
凛と京馬が去ったあと、蓮が玲那の前に立った。
「……ごめんな。びっくりしたろ。
ああいう言い方、あんまよくねぇってのは、分かってたんだけど」
「じゃあ、なんで言ったのよ」
「――言わねぇと、あいつらが“勝手に手ェ出す”から」
玲那は、なにも言い返せなかった。
蓮は、少し声を落とす。
「……お前が、誰かに傷つけられるの、絶対にイヤだった」
その声は、いつもの無愛想で強気な蓮じゃなかった。
(ズルい。……そんな顔、見せないでよ)
「……もう、帰る」
「送ってく」
「ひとりで平気。……心配しなくていいから」
「玲那」
「……あたし、まだあんたのこと、信じてない」
「……っ」
「でも……ちゃんと、見てから決める」
玲那は、まっすぐに蓮を見上げて言った。
「嘘だったら、絶対に許さない。
あたしは――あんたを“好きになんかならない”って、決めてるから」
その言葉を残して、玲那は背を向けた。
蓮はその背中を見つめながら、ポケットの中で指をぎゅっと握りしめていた。
あの言葉が耳に焼きついて離れない。
“こいつは、俺の女だ。手ぇ出すな”
(なんで……あんな場所で……っ)
ざわついた空気、幹部たちの視線、見知らぬ男たちのざらついた笑い声。
玲那はその場から逃げ出すように、工場跡の壁際を走っていた。
胸の奥がずっとザワザワしてる。
なにが起きたのか、まだ頭が整理できない。
(あいつ……“あんな顔”するんだ……)
学校ではいつもニヤニヤしてしつこいくらい近づいてきてうるさくて……でもどこか放っておけないような不思議なオーラがあって。
だけど――さっきの黒崎蓮は、違った。
眼光は鋭くて、立ってるだけで威圧感があって、
みんなが自然と従ってしまうような“支配力”を持ってた。
(あれが……黒崎蓮の“本当の顔”なんだ)
それを見て、怖いと思った。
……でも。
(なんで、少しだけ……格好いいって思ったの?)
自分の中の“矛盾”が怖かった。
そしてなにより――
(あたしの兄を……)
(――晴翔を、殺したのはあいつだって、忘れてないのに)
握りしめた拳が、震える。
その時、背後からゆったりとした足音。
「……泣くには、まだ早いわよ」
振り返ると、そこに立っていたのは――嶺岸 凛。
夜風に革ジャンがなびく。
缶コーヒーを手にしたまま、凛は無言で玲那の隣に腰を下ろした。
「……泣いてないし」
「ふふ。言い方も似てる。あんたの兄と」
「……さっきから、それ……兄のこと、知ってるって……どういう意味?」
凛は缶をプシュ、と開けた。
「晴翔とは……昔、ちょっとだけ特別だった。
あんたがまだ子どもで、覚えてない頃の話よ」
「……特別って、どういう……」
「――その答えは、あんたが自分で探しな」
玲那は黙るしかなかった。
凛は煙草を咥えながら、ぽつりと言葉を落とす。
「蓮はね、“大事なもん”には不器用なのよ。
雑に見せかけて、本当は一歩も踏み込めない。怖いんだと思う」
「……そんなふうに、見えなかったけど」
「それはあんたが“素人”だから。
本当の“夜叉連の蓮”は、あたしたちしか知らない」
玲那の手の中に、まだ蓮が握ってきた“温もり”が残っている。
心がざわつく。
――なにか、見てはいけないものを見てしまったような。
「蓮に惹かれてんの?」
「……わかんない」
「正直でよろしい」
「……でも、許せないよ。
晴翔を殺したって噂、本当かどうかもあたしは知らない。でも、蓮はなにも言わないし、誰も真実を教えてくれないし……」
「それでも、知りたい?」
「……知りたい。
知って、もし本当にそうだったら――あたし、絶対に許さない」
凛は一瞬、玲那の横顔をじっと見つめてから――微笑んだ。
「それでいい。あんたは、あんたのままでいな」
その時、影がふたつ――
「……いた」
蓮の声がした。
ゆっくりと、暗がりから姿を現したのは、蓮とその隣にいた羽瀬 京馬だった。
「……まったく、逃げ足だけは早ぇな」
「逃げてない」
「嘘つけ。顔、思いっきり赤ぇし」
「うるさい……っ」
蓮が凛に目線を向けると、彼女は立ち上がりながら言った。
「はいはい。こっから先は、若いもんでどーぞ。玲那、また今度、ゆっくり話そ」
「……うん」
「ほら!あんたも行くのよ!」
「っ…おい!!痛ぇから耳掴むな凛!!」
凛がズルズルと京馬の耳を引っ張りながらその場を去る。
その様子に少しだけ頬が緩んだ。
凛と京馬が去ったあと、蓮が玲那の前に立った。
「……ごめんな。びっくりしたろ。
ああいう言い方、あんまよくねぇってのは、分かってたんだけど」
「じゃあ、なんで言ったのよ」
「――言わねぇと、あいつらが“勝手に手ェ出す”から」
玲那は、なにも言い返せなかった。
蓮は、少し声を落とす。
「……お前が、誰かに傷つけられるの、絶対にイヤだった」
その声は、いつもの無愛想で強気な蓮じゃなかった。
(ズルい。……そんな顔、見せないでよ)
「……もう、帰る」
「送ってく」
「ひとりで平気。……心配しなくていいから」
「玲那」
「……あたし、まだあんたのこと、信じてない」
「……っ」
「でも……ちゃんと、見てから決める」
玲那は、まっすぐに蓮を見上げて言った。
「嘘だったら、絶対に許さない。
あたしは――あんたを“好きになんかならない”って、決めてるから」
その言葉を残して、玲那は背を向けた。
蓮はその背中を見つめながら、ポケットの中で指をぎゅっと握りしめていた。