『脆い絆』
100 ◇心底驚いた


不思議とショックはなかった。

それは、秀雄が自分に会わずに踵を返した理由が「先が長くない」という
理由からだと思われたからだ。

この理由なら、自分じゃなくても……断られる率は高い。
この理由なら秀雄じゃなくても……踵を返す率は高かろう。

自分が弱い身体(病気)のせいで、いらない人間と値踏みされたくはなかった。

強くそう思いたかったのは、世の中には例え相手(女性)が不治の病であっても
求婚する男性(ひと)はいるし、求愛される女性(ひと)も世の中にはいる
ことを雅代が知っていたからに他ならない。

 
心に引っ掛かっていた疑念が晴れ、すっきりした雅代だったが
あともう1つ、すっきりしないものがあった。

それは自分の病名……というか病状である。
ほんとにただの過労ならよいのだが。

午後からは検温もなくただゆったりと布団に入っているだけでよかった。
検査結果はいつでるのだろう、早く知りたい。

あれから一度温子が訪ねてくれて、職場のことは気にせずこんな時でもない限り
なかなかゆっくりできないのだから養生するようにと、言ってくれた。

温子の言葉がなければ、職場のことを気に病んでいたかもしれず、有難いなぁ~
と思う。

……とまぁ、いろいろと物思いに耽っていた時である。

          ◇ ◇ ◇ ◇

◇ 午後、哲司の見舞いあり


病室のドアをくぐって入って来る哲司の姿を目にして、雅代は心底驚いた。

あんなにはっきりと結婚の話を断っていただけに、彼が見舞いに来てくれるなどと 
思いもしなかったから。






        ――――― シナリオ風 ―――――


〇病室・午後

   静かな病院の午後。
   遠くで小鳥の声。

(N)
「不思議と、ショックはなかった。
 秀雄が会わずに去った理由が『先が長くない』と思ったからだ。
 その理由なら、自分でなくても断られる。
 その理由なら、誰であっても踵を返すかもしれない。
 そう思えば、気持ちに折り合いをつけられる気がした」

   雅代、布団の上で目を閉じる。


(N)
「だが、もうひとつ胸に引っかかっているものがある。
 自分の病状。

 "ほんとに過労だけなのか?”
  検査結果を待つ時間は、ひどく長く感じられた」



温子(回想)
「職場のことは気にせず、養生なさいな。
 こんな時でもなければ、ゆっくりなんてできないんだから」

(N)
「温子の言葉がなければ、職場のことを気に病んでいたかもしれない。
 ありがたいと思った」



◇病室での再会


   病室のドアが開く音がする。

   哲司が姿を現す。
   雅代、驚いて上体を起こす。


(N)
「――その時。
 病室の戸を開けて入ってきたのは、まさかの人物だった」

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