『脆い絆』
18 ◇凛子の正体

振り返ってみれば凛子の正体に疑問を持たなければならなかったのに
自分の欲に負けて見て見ぬ振りをしていたのだ。

出戻ってきて1年。彼女の言動は妻とは何から何まで対照的に見えた。

凛子は一向に働く気配が見受けられないのに、義両親は何も言わず、
あぁ、温子とは待遇が少し違うのだなと思うことがあった。

義両親には温子が毎月かなりの収入を入れていた。

なので、義両親のことも妹の凛子のことも温子が養っているような
ものだった。


働き者の姉と楽することしか考えていない妹……という図式に
前々から違和感を感じていたというのに、簡単に手玉に取られてしまい
それなのに、俺はどうしてやり過ごせばいいのか判断できずにいた。

完全に凛子にしてやられたと言っても過言ではない。


凛子という女はとんでもないヤツだった。

温子に謝罪するどころか自分の両親や姪である俺の娘まで手玉にとり
洗脳して温子を家から追い出してしまうようなタマだった。


温子が家を出て行った日からあとの我が家は悲惨なものだった。
義母がしばらくは、孤軍奮闘頑張ってくれていたのだが……。



しかし、3か月も過ぎると無理がたたったのか……
老いた義母だけでは、到底家事を回しきれず身体を壊してしまう。

そりゃそうだ。
元気なはずの凛子が一切合切、自分のことすら母親に丸投げ状態なのだからな。

それでもそのまま、義妹(凛子)が今まで通りの生活スタイルを
変えることはなかった。


-591-


     ――――  おまけ シナリオ風 ――――

✿ うじうじ哲司の回想+悔恨と小桜家の様子など ✿


〇自宅  茶の間  夜 
物思いに耽る(回想)哲司


「振り返れば──
俺は、凛子の正体に気づかねばならなかったのだ。
だが、欲に負けた俺は……見て見ぬふりをした。
凛子が戻ってきて、もう一年になる。
言動は温子とは何から何まで違っていた。
働くそぶりなど見せたこともない」

家庭内の哲司の記憶の中の様子

・凛子、昼間から鏡前で髪を整え、爪を磨いている
・義母が笑顔でお茶を淹れわざわざ凛子に持ってくる
・温子、夜勤明けでフラフラと帰宅し、無言で台所に立つ

・温子が封筒を義父に渡す
・義父、静かに受け取る
・凛子が鼻歌まじりに階段を下りてきて、甘えた声で両親に話し掛ける。

哲司の中ではお金を受け取る父親もそれを察している母親も
それほど温子に礼を言う場面を見たことがなく、不思議に感じてはいた。
「義両親は何も言わなかった。
温子は、あれだけ家にお金を入れていたというのに……」

「働き者の姉と、楽をして暮らす妹──
そんな構図に、ずっと違和感があった」


(回想)温子にバレた夜
**  **
・凛子が寝間着でそっと哲司を迎え入れる
・障子越しに影が寄り添う     
              **  **
音:階段を上る音
温子の声(凍りついたように)

「……何をしているの、あなたたち」

・障子が開く 布団の中でふたり密接していた身体が離れる
・布団の上にいる凛子、驚いたあとすぐに姉の温子に暴言を吐く
・哲司、一瞬呆然とするも、急いで衣服を身につける

〇 現在  茶の間  夜

哲司(N)(沈痛な語り)

「凛子は……とんでもない女だった。
謝罪ひとつしないばかりか、義両親や娘にまでも……
あろうことか、温子を追い出すよう仕向けた」

イメージ
・凛子が、母に言いくるめるようにささやいている
・温子、荷物を手に静かに玄関を出て行く背中

[温子が出て行ったあとの家]

哲司(N)「温子が家を出たあの日から……
我が家は、音を立てて崩れていった」

イメージ
・義母が一人で洗濯物を干している
・凛子は縁側で菓子を食べて本を読んでいる


[季節が変わる(義母の体調悪化)]

哲司(N)「3ヶ月を過ぎた頃……無理がたたったのだろう。
義母は倒れた。家事はすべて、老いた母親任せだったせい」

イメージ
・義母がヨロヨロと手をつきながら台所に立つ
・凛子は浴衣姿でうちわを仰ぎ、微動だにせず


哲司(心の声)「それでも凛子は……変わらなかった。
自分のことすら、母親に任せきりで」
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