『脆い絆』
39 ◇両親に結婚を阻まれる

「涼さん、若いあなたには世間というものがなんなのか分かって
いないようですね。

ゆくゆくは、(うち)を継ぐ身ならば若いからといって
世間知らずは通りませんよ。


あなた自身そして珠代夫婦のみならず、先々では和彦さんのきょうだいまで
引き受けなければならないのだし、勤めてくれている工員さんたちもそう。

そして私たちもね。
皆、あなたのその肩の上にずっしりと乗っているのを忘れられては困るのよ。

あなたが責任を持つと言うから珠代と和彦くんの結婚だって許したのだし、
もう勝手に家業から手を引くことは許されませんよ。

そんな重責を担ったあなたの伴侶になる人が……
母親が花街で芸子をしていて生れ落ちた誰が父親かも分からない志乃さんだなんて……そんな彼女があなたの正妻では家業に傷をつけてしまうわ。

私だって好きでこんな酷いことを言いたいわけじゃないのよ。

志乃ちゃんは器量も気立てもいい女性(ひと)よ。

分かってる、ちゃんと分かってるのよ? 
それに私は差別主義者じゃないつもり。

だから今まで志乃ちゃんを避けたりしてこなかった。
家の子たちと接する分にはね。
あなたがせめて長男でなければ、と思うわ。
気の毒だけど諦めてちょうだい」


「どうしてもと言うなら……結婚後、彼女を囲えばいいじゃないか……」

「あなた……そんな」


「いえ、結婚できないのであれば彼女にそのような仕打ちはできません。
すっぱりと別れて彼女の幸せを祈りますよ。
彼女を日陰者にはしたくありませんから」


兄はそれ以上何も言わずそう告げると、ゆっくりと立ち上がり、静かに背を
向けて部屋を出て行った。


         ――――― シナリオ風 ―――――


千代子(静かに、しかし厳しく)
「涼さん。あなたは長男です。
北山家の家督を継ぐ者です。
そして、いずれ工場という多くの命と暮らしを背負う立場になります」

   涼、言葉を飲み込む

千代子(続ける)
「志乃ちゃんは、気立ても顔立ちも申し分ない。
けれど――母親は花街の芸子、父親の素性も分からぬ家筋。
そういう女性が“正妻”としてあなたの隣に立つことで……
この家に傷がつくこともあるのよ」

(沈黙)

千代子
「私は差別をしたいわけじゃない。
今まで志乃ちゃんと接してきたのも、それが理由。
けれど……お父様の言う通り、長男の妻は“好きなだけ”じゃ務まらないの」


父親
「どうしてもと言うなら……結婚後、彼女を囲えばいいじゃないか……」


「いえ、結婚できないのであれば彼女にそのような仕打ちはできません。
 すっぱりと別れて彼女の幸せを祈りますよ。
 彼女を日陰者にはしたくありませんから」

   母や父の言葉に打ちのめされた涼はそう言うと静かに席を立ち、
   踵を返し、無言で部屋を出ていく



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