『脆い絆』
45 ◇大宮公園で


**
涼も温子も世間でいうところの年頃というわけでもないが
頻繁に男女が大勢の人目につく場所に2人きりで出歩くのには
抵抗があり慎重な涼。

それは温子を世間の蔭口などから守るという意味合いもあってのこと 
でだった。

そのようなことも含めふたりのことを応援したいと思っている妹の珠代とも
気持ちが一致していたため、これ以降もチャンスがあれば4人で行動を共に
することが増えていった**
                            
          ◇ ◇ ◇ ◇


そして温子の招待を受けた翌週、涼と温子そして珠代夫妻の4人で
大宮公園までそれぞれ人力車で出向いた。

両親が生きていた頃は時々、イベントのある時などに家族で来たものだが、
両親亡きあと私は和くんと何度か来ているが兄と来たことは一度もない。

だから大勢で来れてすごくうれしい。

私は天ぷら蕎麦、兄と温子さんと和くんは懐石料理にした。

懐石には茶碗蒸しとみそ汁、お新香に小鉢が何品か付いていてデザートも
付いているのだ。もちろん和くんのデザートは私の胃袋を満たした。

4人だと話も弾むわ。

私と温子さんとの距離がまたひとつ縮まり、兄との今まで少し離れてい
時間も近くなった。


きっと和くんも兄との距離が近くなっていると思うし。

温子さんが寮に入所することがなければ、なかった時間がここにある。

温子さんは少なくとも私と兄、そしてさらには夫の和彦に幸福な時間を
与えてくれる女性(ひと)だ。

私はこんなふうな幸せな時間が長く続けばいいのにと思った。

だけど私が強くそう思っても、兄と温子さんの距離を縮めるには具体的に
どうすれば……どう動けばよいのやら分からないことが歯がゆい。

兄に、ずばっと『温子さんにお嫁さんになってもらえばいい』なんて
そんな露骨なことは言えるはずもなく、更に温子さんに『兄は掘り出し物
ですよ。夫にどうですか』なぁ~んてことは余計に言えないし。


               *  *


自分だけが焦ってもどうしようもないことだということは、珠代にも分かっている。

だから……

とにかく諦めずに実が熟す迄じゃないけれど、気長にふたりの距離が
近くなるよう外出したりどちらかの家に集れるようよくよく考えて
チャンスを作るしかないという結論に達するのであった。


-882-


    ――――― シナリオ風 ―――――

〇帰り道・工場の裏門から珠代と涼が歩いている・2
   秋の風が吹き抜ける街道沿い。
   並んで歩く兄妹

    手料理のお礼として一度温子を誘おうと決意した涼。
    妹を誘うと夫を誘い一一緒に行くと快諾。
    それのみならず、妹からこれからも4人で出掛けようと
    提案される。

    社長と従業員という間柄で、温子とふたりで出掛けることには
    抵抗のある涼も、4人で出掛けるというセッティングに安心して
    妹の提案にのることができた。




〇[涼と温子/珠代と和彦]外出先・大宮公園/翌週の土曜

   人力車で向かう4人。
   園内は木漏れ日と涼風が気持ちよく吹いている。


珠代(N)「両親が生きていた頃は、こんなふうに皆で出かけることも多かった 
 けれど……両親亡きあと兄と来たことはなく、今日は感慨深いものがあっ 
 た」

   食事処で食べる懐石料理。
   温子と涼は並んで座っているが、ふと目を合わせては恥ずかしそうに
   逸らす。


珠代(和彦に耳打ち)
「ねぇ……あの感じ、どう? ちょっといい雰囲気じゃない?」

和彦
「うん。
 なかなか、お似合いだな」

   思い通りの夫からの返事に珠代、にっこりと頷く。
   そして夫のデザートを胃袋に流し込みご満悦な珠代。

   珠代、温子と自分たち3人との距離が縮まったように感じる。

珠代(N)「こんなふうな幸せな時間が長く続けばいいのにと思った。
 そして、兄と温子との結婚を願い、どうにかしなければと思うのだった」

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