『脆い絆』
98 ◇何かご存じなのですか?
待てど暮らせどその日、秀雄が病室に顔を見せることはなかった。
雅代の中にあるのは『ここまで来ておいて何故?』だった。
そんな想いで迎えた翌日に、雅代の入院前からいた隣の入院患者が別の病室へと
移動して行った。
気になっていた雅代は、検温のため巡回しにきた看護婦に尋ねてみた。
「隣の人はどうして病室を変わったのですか?」
「えっと、大川さん内緒にしてくださいね。
病名は言えませんが、あの患者さんは悪性の病理があってもう手の施しようが
ないんです」
「そうなんですか。分かりました。他の人には吹聴したりしませんので……。
あのそれと、もうひとつお聞きしたいことがあります」
「昨日、私に誰かお見舞いに来た人はいなかったでしょうか?
実は私、受付に知人がいるのを見て、直接声を掛けずに病室に戻ってその人を
待ったんです。でも、結局現れませんでした。
その人が私とは別の人のお見舞いに来たという可能性もなくはないとも
思いますが。何か気付いたこととか……ありませんか?」
雅代がそう問うと、その看護婦に『はっ』とした様子が伺えた。
なので、雅代は少し期待を持って彼女の返事を待った。
彼女は困っているというふうな表情を見せ、雅代に訊いてきた。
「その人って女性ではなく男の人ですよね?」
その返しに益々雅代の期待は膨らみ「はいっ」と答えた。
看護婦は『あちゃ~』というふうに額に手を置き、何かを思案しているふうに見えた。
返事を促したくて雅代は言い募る。
「やはり何かご存じなのですか?」
――――― シナリオ風 ―――――
〇雅代の入院先/病室・夜
時計の秒針の音。
窓の外は静かな夜。
待てど暮らせど、その日――秀雄は病室に現れることはなかった。
雅代の胸に募るのはただひとつ。
雅代(心の声)「ここまで来ておいて、なぜ?」
雅代、ベッドに横たわりじっと天井を見つめている。
〇雅代の入院先/病室・翌朝
廊下を行き交う足音。
看護婦が入ってくる。
隣のベッドにいた入院患者が、別の病室へ移されていった。
雅代、検温のタイミングで看護婦に声をかける。
雅代「看護婦さん、あの……隣の方はどうして病室を変わられたのですか?」
看護婦
「……えっと、大川さん。内緒にしてくださいね。
病名は言えませんが、あの方は悪性の病理で……もう手の施しようが
ないんです」
雅代「そう、なんですか……。分かりました。口外はしません。
あの、それと――もう一つお聞きしたいことがあります」
看護婦「はい?」
雅代「昨日……受付に知人を見かけたんです。
声をかけずに病室で待っていたんですが、結局来なくて……。
私じゃなく、別の方のお見舞いだったのかもしれませんけど……何か
ご存じありませんか?」
看護婦、一瞬「はっ」と表情を変える。
雅代(N)「その顔を見て、雅代の胸に小さな期待が灯った」
看護婦「その方って……女性ではなく、男の方ですよね?」
雅代(勢い込んで)「はいっ!」
看護婦、額に手を当てて困ったように沈黙。
雅代「やはり……何かご存じなのですか?」
待てど暮らせどその日、秀雄が病室に顔を見せることはなかった。
雅代の中にあるのは『ここまで来ておいて何故?』だった。
そんな想いで迎えた翌日に、雅代の入院前からいた隣の入院患者が別の病室へと
移動して行った。
気になっていた雅代は、検温のため巡回しにきた看護婦に尋ねてみた。
「隣の人はどうして病室を変わったのですか?」
「えっと、大川さん内緒にしてくださいね。
病名は言えませんが、あの患者さんは悪性の病理があってもう手の施しようが
ないんです」
「そうなんですか。分かりました。他の人には吹聴したりしませんので……。
あのそれと、もうひとつお聞きしたいことがあります」
「昨日、私に誰かお見舞いに来た人はいなかったでしょうか?
実は私、受付に知人がいるのを見て、直接声を掛けずに病室に戻ってその人を
待ったんです。でも、結局現れませんでした。
その人が私とは別の人のお見舞いに来たという可能性もなくはないとも
思いますが。何か気付いたこととか……ありませんか?」
雅代がそう問うと、その看護婦に『はっ』とした様子が伺えた。
なので、雅代は少し期待を持って彼女の返事を待った。
彼女は困っているというふうな表情を見せ、雅代に訊いてきた。
「その人って女性ではなく男の人ですよね?」
その返しに益々雅代の期待は膨らみ「はいっ」と答えた。
看護婦は『あちゃ~』というふうに額に手を置き、何かを思案しているふうに見えた。
返事を促したくて雅代は言い募る。
「やはり何かご存じなのですか?」
――――― シナリオ風 ―――――
〇雅代の入院先/病室・夜
時計の秒針の音。
窓の外は静かな夜。
待てど暮らせど、その日――秀雄は病室に現れることはなかった。
雅代の胸に募るのはただひとつ。
雅代(心の声)「ここまで来ておいて、なぜ?」
雅代、ベッドに横たわりじっと天井を見つめている。
〇雅代の入院先/病室・翌朝
廊下を行き交う足音。
看護婦が入ってくる。
隣のベッドにいた入院患者が、別の病室へ移されていった。
雅代、検温のタイミングで看護婦に声をかける。
雅代「看護婦さん、あの……隣の方はどうして病室を変わられたのですか?」
看護婦
「……えっと、大川さん。内緒にしてくださいね。
病名は言えませんが、あの方は悪性の病理で……もう手の施しようが
ないんです」
雅代「そう、なんですか……。分かりました。口外はしません。
あの、それと――もう一つお聞きしたいことがあります」
看護婦「はい?」
雅代「昨日……受付に知人を見かけたんです。
声をかけずに病室で待っていたんですが、結局来なくて……。
私じゃなく、別の方のお見舞いだったのかもしれませんけど……何か
ご存じありませんか?」
看護婦、一瞬「はっ」と表情を変える。
雅代(N)「その顔を見て、雅代の胸に小さな期待が灯った」
看護婦「その方って……女性ではなく、男の方ですよね?」
雅代(勢い込んで)「はいっ!」
看護婦、額に手を当てて困ったように沈黙。
雅代「やはり……何かご存じなのですか?」