夢境にて
ふと目を開けると、一面が白い世界だった。
雪景色にしては寒くないし、まさか天国にでも来てしまったのだろうかと考え込んでいると、ひょこりと視界に何かが入り込む。
あ、ここ、病院だ。
「おはよう、ございます」
掠れた声でそう呟くと、私の顔を覗き込んでいた人物……北斗さんは、驚きに目を見開いた後、慌ててナースコールを押してくれて。
「おかえり」と返された声は、何故だか少し泣きそうに聞こえた。
☆
「結局、何だったんだろうねぇ」
最初から最後まで身体に異常が見られなかったおかげで、いまいち危機感がなかった大冒険から一週間ほど経った頃。
今日も今日とて元気に研究室へと出勤した私は、アルトと3人そろったタイミングで北斗さんから振られたその話題に、不思議でしたね、と首を傾げた。
「行った理由もわからなければ、戻ってきた理由も不明とは」
「北斗が何かしたんじゃないのか?」
「まあ、指をくわえて見ていただけではないけれど……」
私がアルトの世界で過ごしている間、北斗さんは何とか私を元の身体に戻すべく、色々と試し続けていたようで。
具体的に何をしていたのかはあまり教えてくれなかったけれど、電子データの私の複製を作って、と聞こえたあたりで、あまり詳しく知らない方が良さそうだと悟ってしまった。
ここにいる私って、本当に私なのだろうか。
……怖いから、これ以上考えるのはやめておこう。
「ただ、思いつく限りのことを全部一気に試したものだから、結局どれが戻る原因になったのかわからなくて」
また同じことが起こった時は、試し直すしかないんだよね、と溜め息をつく北斗さんに、その時はもう一度よろしくお願いしますと頭を下げておく。
「そもそも行かないようにしてほしいものだけれど」
「原因もわからないので、気を付けようがなくて……」
「確かに」
注意はしてみます、と意気込んでおいた私だけれど、私は私なりに今回の騒動のきっかけだけは推測していたりする。
根拠は何一つないし、もしかしたら別の原因もあるかもしれないから、誰にも言っていないけれど。
向こうに行った時も、こちらに帰ってきた時も。
私の身体は、アルトに向かって飛び込んだのだ。
どうしてアルトが、とまで考えると、答えは見つけられなかったけれど。
例えば、アルトは普通のAIよりも人間に近いから、世界を行き来するゲートのような役割となって……なんて予想は、どうだろうか。
夢物語のような予測だけれど、体験したこと自体が夢みたいなものなのだから、理由も現実的なものではなくたって良いような気がしていて。
……少なくとも今後しばらくは、アルトに向かって飛び込むことがないようにだけは、きちんと気を付けようと考えている。
とはいえ、今回の冒険は、私にとって、少し変わった休暇のようなもので。
無事に戻って来られたことに感謝をしつつも、心の底から楽しかった、と振り返ることができる記憶になっていた。
アルトや北斗さんには絶対に言えないけれど、もう一度くらい向こうに行けたらいいのに、とこっそり思っていたり。
……あ、夢といえば。
「そういえばアルト、最近悪夢はどう?」
せっかくだから、北斗さんがいる間に相談してしまおうと、ずっと気になっていた悪夢のその後に水を向ける。
私がこちら側の世界に戻る寸前に見たあの夢の中で、可能な限り私への信頼感を高めてもらえるように頑張ってはみたものの、あの日以降アルトと夢の話は出来ていないままで。
少なくとも悪化していないといいけれど、と言外に心配を乗せた私の言葉を受け、アルトはとてつもなく渋い表情を見せた。
……おや?
「すごく筋肉が発達したAIの先生が、地球外生命体と肉弾戦を繰り広げ始めてな……」
悪夢がどうこうどころの騒ぎではなくなってしまって、と頭を抱えるアルトだが、怖がっているというよりも純粋に困惑しているという雰囲気だったので、私なりに健全な解決ができたのではないだろうか。
きょとん、とした表情を見せる北斗さんを他所に、ちょっとやりすぎたかもしれないと反省しつつも、私は達成感でこっそり拳を握りしめた。
雪景色にしては寒くないし、まさか天国にでも来てしまったのだろうかと考え込んでいると、ひょこりと視界に何かが入り込む。
あ、ここ、病院だ。
「おはよう、ございます」
掠れた声でそう呟くと、私の顔を覗き込んでいた人物……北斗さんは、驚きに目を見開いた後、慌ててナースコールを押してくれて。
「おかえり」と返された声は、何故だか少し泣きそうに聞こえた。
☆
「結局、何だったんだろうねぇ」
最初から最後まで身体に異常が見られなかったおかげで、いまいち危機感がなかった大冒険から一週間ほど経った頃。
今日も今日とて元気に研究室へと出勤した私は、アルトと3人そろったタイミングで北斗さんから振られたその話題に、不思議でしたね、と首を傾げた。
「行った理由もわからなければ、戻ってきた理由も不明とは」
「北斗が何かしたんじゃないのか?」
「まあ、指をくわえて見ていただけではないけれど……」
私がアルトの世界で過ごしている間、北斗さんは何とか私を元の身体に戻すべく、色々と試し続けていたようで。
具体的に何をしていたのかはあまり教えてくれなかったけれど、電子データの私の複製を作って、と聞こえたあたりで、あまり詳しく知らない方が良さそうだと悟ってしまった。
ここにいる私って、本当に私なのだろうか。
……怖いから、これ以上考えるのはやめておこう。
「ただ、思いつく限りのことを全部一気に試したものだから、結局どれが戻る原因になったのかわからなくて」
また同じことが起こった時は、試し直すしかないんだよね、と溜め息をつく北斗さんに、その時はもう一度よろしくお願いしますと頭を下げておく。
「そもそも行かないようにしてほしいものだけれど」
「原因もわからないので、気を付けようがなくて……」
「確かに」
注意はしてみます、と意気込んでおいた私だけれど、私は私なりに今回の騒動のきっかけだけは推測していたりする。
根拠は何一つないし、もしかしたら別の原因もあるかもしれないから、誰にも言っていないけれど。
向こうに行った時も、こちらに帰ってきた時も。
私の身体は、アルトに向かって飛び込んだのだ。
どうしてアルトが、とまで考えると、答えは見つけられなかったけれど。
例えば、アルトは普通のAIよりも人間に近いから、世界を行き来するゲートのような役割となって……なんて予想は、どうだろうか。
夢物語のような予測だけれど、体験したこと自体が夢みたいなものなのだから、理由も現実的なものではなくたって良いような気がしていて。
……少なくとも今後しばらくは、アルトに向かって飛び込むことがないようにだけは、きちんと気を付けようと考えている。
とはいえ、今回の冒険は、私にとって、少し変わった休暇のようなもので。
無事に戻って来られたことに感謝をしつつも、心の底から楽しかった、と振り返ることができる記憶になっていた。
アルトや北斗さんには絶対に言えないけれど、もう一度くらい向こうに行けたらいいのに、とこっそり思っていたり。
……あ、夢といえば。
「そういえばアルト、最近悪夢はどう?」
せっかくだから、北斗さんがいる間に相談してしまおうと、ずっと気になっていた悪夢のその後に水を向ける。
私がこちら側の世界に戻る寸前に見たあの夢の中で、可能な限り私への信頼感を高めてもらえるように頑張ってはみたものの、あの日以降アルトと夢の話は出来ていないままで。
少なくとも悪化していないといいけれど、と言外に心配を乗せた私の言葉を受け、アルトはとてつもなく渋い表情を見せた。
……おや?
「すごく筋肉が発達したAIの先生が、地球外生命体と肉弾戦を繰り広げ始めてな……」
悪夢がどうこうどころの騒ぎではなくなってしまって、と頭を抱えるアルトだが、怖がっているというよりも純粋に困惑しているという雰囲気だったので、私なりに健全な解決ができたのではないだろうか。
きょとん、とした表情を見せる北斗さんを他所に、ちょっとやりすぎたかもしれないと反省しつつも、私は達成感でこっそり拳を握りしめた。