欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
1、雨宿りの夜、シャツの奥に咲いた熱

雨宿りと微笑み

会社の帰り道、ぽつぽつと頬に雨粒が落ちたかと思えば、数秒後には激しい雨音が頭上を叩いた。

「……やだなぁ」

思わず漏らした私の声は、雨音にかき消される。

駅まであと数分というところで、まさかの本降り。

今朝は晴れていたのに、傘を持ってきていなかった。

鞄の中に入れていたはずの折り畳み傘も、昨日使ったまま出しっぱなしだったことを思い出して、私は小さく舌打ちした。

慌てて近くのコンビニに駆け込むと、案の定、傘売り場には「売り切れ」の文字。

仕方なく、駅前のロータリー横にある小さな屋根の下で、ひとり肩をすぼめることにした。

シャツの肩が雨に濡れてじっとりと重い。

気温も下がってきたのか、冷たい風が濡れた肌を撫でて、ぞくりと背筋を走る。

雨宿りをしている人はほとんどおらず、私の立つ小さなスペースは、まるでぽつんと孤立した浮島のようだった。
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