欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
駅前はネオンに濡れ、車のライトが水たまりに反射して不規則に揺れる。

こんな日は、なんとなく寂しい。

濡れたシャツが肌に張り付き、不快感と心細さがじわじわと広がっていく。

そんな時だった。

「……ここ、少し、いいですか?」

低く穏やかな声が耳に届いた。

振り返ると、背の高いスーツ姿の男性が、申し訳なさそうに立っていた。

額に貼りついた濡れた前髪と、シャツの襟元から覗く鎖骨。

優しげな目元と、落ち着いた口調。

「あ、はい……どうぞ。」

私は少し身を引き、彼にスペースを譲った。

彼は軽く頭を下げて、私の隣に立つ。

すると、わずかに漂ってきたシトラス系の香りが、濡れた空気に混ざって鼻先をくすぐった。

「夕立、ひどいですね。」

そう言って彼が小さく笑う。私もつられて、頷いた。
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