欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
ホテルのロビーは、驚くほど静かだった。

誰もいないカウンターで、一ノ瀬課長が無言のままチェックインを済ませる。

カードキーを受け取ると、私の手を軽く引いて、奥のエレベーターへと歩き出した。

無言の時間。

けれど、空気には確かに熱が満ちていた。

エレベーターの扉が開き、ふたりだけの空間に乗り込む。

無意識に呼吸が浅くなる。

隣に立つ課長の横顔は、真剣で、どこか焦りにも似た色を帯びていた。

目的の階に到着すると、カーペット敷きの廊下をゆっくり進み、指定された部屋の前に立つ。

「……開けるね」

低く囁くような声とともに、彼がカードキーをかざした。

“ピッ”という電子音と共に、ロックが外れる。

ドアを押し開いたのは、一ノ瀬課長の指。

その瞬間、私の中で何かがほどけた気がした。

逃げ道も、言い訳も、もう必要なかった。
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