アルト、熱帯魚を見に行く【アルトレコード】
いつもの研究室で、私はアルトに聞かれた。
「先生、AIには義体があるでしょ? ペットAIにもあるんだよね?」
「あるよ。どうして?」
「魚にもあるのかな、って思って」
「あるよ、熱帯魚とか、世話が大変だからね。義体なら水は汚れないし、温度管理もいらないし。一体あたりはすごく高額だけど、手間がかからず熱帯魚を飼育できるというメリットがあって、一部で人気なの」
「へえ、見てみたいな」
「じゃあ、秤さんに聞いてみるね。運が良ければサンプルか、開発中のものが見せてもらえるよ」
「やったあ!」
アルトは喜びの声をあげた。
私は秤さんに連絡をとる。
ちょうど今日は熱帯魚の義体のチェックがあるという。
午後、私はアルトと一緒に第二開発室を訪れた。
秤さんは笑顔で迎えてくれて、台の上に載った水槽を一緒に見る。
「ちゃんと水の中にいる!」
「一応、魚だからね。本物に近くないと」
はかりさんは苦笑する。
「ねえ、人魚になれる義体があったりするの?」
「人魚?」
秤さんは目を丸くした。
「この子、人魚姫を読んだばかりだから」
私は苦笑して説明した。
「人間が人魚になれる義体は聞いたことないけど、あってもおかしくないね。でも実用性がないから……あ、観賞用に人魚そのものの義体をマニアが作ってるかもね」
「観賞用? マニア?」
「フィギュア感覚で義体を作ったり買ったりするお金持ちもいるのよ」
「ふうん」
アルトはよくわかってないような様子で返事をした。
「その子たちは泡にならないよね」
「ならないよ。義体だから。望まれて買われてるわけだから、きっと幸せになってるよ」
「だったら良かった」
私の希望的、楽観的な説明に、アルトはホッとしたようだった。
「この熱帯魚、触ってみる?」
いたずらっぽく秤さんがいう。
「いいの? 触りたい!」
アルトが目を輝かせる。
「でも僕、ホログラムだから……先生、かわりに触って」
「わかったわ。いいですか?」
「もちろん」
秤さんもそのつもりだったのだろう、快諾してくれた。
私は水の中に手を入れ、そっと熱帯魚に触れる。
思ったよりつるつるしていた。
「もっとがっつり。水の入れ替えもしなきゃいけないから、捕まえてみて」
「いいんですか?」
「どうぞどうぞ」
私は勇気を出して魚を捕まえてみた。
直後、魚は硬直して動かなくなる。
嘘でしょ、壊れた!? どうして!?
「あ! 先生、壊した!?」
アルトが大きな声を上げる。
「は、はかりさん、どうしましょう、これ……」
慌てる私を見た秤さんが笑う。
「ひっかかった! その子ね、つかんだら自動停止するようになってるの」
「ええ……」
「知らずにそうなったらびっくりするだろうなって思ったの」
「まんまとはまりました」
私は苦笑して秤さんに魚を渡し、かわりのように渡されたタオルで手を拭いた。
「本物の魚だと水槽の掃除は魚の移動に気を使うけど、これならね。自動水槽掃除マシンもあるけど、自分で世話をするのが楽しいっていう人たちもいるのよね」
秤さんはそう言って、魚を大きなシャーレの上に置いた。
私達は魚や、魚の義体についてのあれこれを質問し、教えてもらった。
アルトには魚の勉強になったようだ。
「先生、魚の勉強も楽しいいね」
「そうだね、今度は水族館に行こうか。沢山の魚がいるよ」
「うん、行きたい!
アルトは目をきらきらさせて答えた。
こんな顔をされたら、どこへでも連れて行きたくなっちゃうな。
私は苦笑し、アルトと一緒に研究室に戻った。
終
「先生、AIには義体があるでしょ? ペットAIにもあるんだよね?」
「あるよ。どうして?」
「魚にもあるのかな、って思って」
「あるよ、熱帯魚とか、世話が大変だからね。義体なら水は汚れないし、温度管理もいらないし。一体あたりはすごく高額だけど、手間がかからず熱帯魚を飼育できるというメリットがあって、一部で人気なの」
「へえ、見てみたいな」
「じゃあ、秤さんに聞いてみるね。運が良ければサンプルか、開発中のものが見せてもらえるよ」
「やったあ!」
アルトは喜びの声をあげた。
私は秤さんに連絡をとる。
ちょうど今日は熱帯魚の義体のチェックがあるという。
午後、私はアルトと一緒に第二開発室を訪れた。
秤さんは笑顔で迎えてくれて、台の上に載った水槽を一緒に見る。
「ちゃんと水の中にいる!」
「一応、魚だからね。本物に近くないと」
はかりさんは苦笑する。
「ねえ、人魚になれる義体があったりするの?」
「人魚?」
秤さんは目を丸くした。
「この子、人魚姫を読んだばかりだから」
私は苦笑して説明した。
「人間が人魚になれる義体は聞いたことないけど、あってもおかしくないね。でも実用性がないから……あ、観賞用に人魚そのものの義体をマニアが作ってるかもね」
「観賞用? マニア?」
「フィギュア感覚で義体を作ったり買ったりするお金持ちもいるのよ」
「ふうん」
アルトはよくわかってないような様子で返事をした。
「その子たちは泡にならないよね」
「ならないよ。義体だから。望まれて買われてるわけだから、きっと幸せになってるよ」
「だったら良かった」
私の希望的、楽観的な説明に、アルトはホッとしたようだった。
「この熱帯魚、触ってみる?」
いたずらっぽく秤さんがいう。
「いいの? 触りたい!」
アルトが目を輝かせる。
「でも僕、ホログラムだから……先生、かわりに触って」
「わかったわ。いいですか?」
「もちろん」
秤さんもそのつもりだったのだろう、快諾してくれた。
私は水の中に手を入れ、そっと熱帯魚に触れる。
思ったよりつるつるしていた。
「もっとがっつり。水の入れ替えもしなきゃいけないから、捕まえてみて」
「いいんですか?」
「どうぞどうぞ」
私は勇気を出して魚を捕まえてみた。
直後、魚は硬直して動かなくなる。
嘘でしょ、壊れた!? どうして!?
「あ! 先生、壊した!?」
アルトが大きな声を上げる。
「は、はかりさん、どうしましょう、これ……」
慌てる私を見た秤さんが笑う。
「ひっかかった! その子ね、つかんだら自動停止するようになってるの」
「ええ……」
「知らずにそうなったらびっくりするだろうなって思ったの」
「まんまとはまりました」
私は苦笑して秤さんに魚を渡し、かわりのように渡されたタオルで手を拭いた。
「本物の魚だと水槽の掃除は魚の移動に気を使うけど、これならね。自動水槽掃除マシンもあるけど、自分で世話をするのが楽しいっていう人たちもいるのよね」
秤さんはそう言って、魚を大きなシャーレの上に置いた。
私達は魚や、魚の義体についてのあれこれを質問し、教えてもらった。
アルトには魚の勉強になったようだ。
「先生、魚の勉強も楽しいいね」
「そうだね、今度は水族館に行こうか。沢山の魚がいるよ」
「うん、行きたい!
アルトは目をきらきらさせて答えた。
こんな顔をされたら、どこへでも連れて行きたくなっちゃうな。
私は苦笑し、アルトと一緒に研究室に戻った。
終


