聖女の愛した花園
序章【秘めたる仮面の裏】
私がさゆりお嬢様付きのメイドになったのは、お嬢様が五つの頃でございました。初めてお目にかかったあの日のことは、今でもはっきりと覚えております。なんと愛らしい、正に無垢な天使そのものでした。
「白雪さゆりです。よろしくおねがいします」
丁寧にお辞儀をなさるそのお姿は、幼いながらも既に立派なレディでございました。まだまだ若輩者のメイドでしたが、お嬢様のために精一杯尽くそうと決心いたしました。
お嬢様は好き嫌いをなさらず、どんな料理にも「美味しいわ」と微笑まれます。ご両親である旦那様と奥様はお仕事でご多忙のため、家を空けることも多々ございました。きっとお寂しいはずなのに我儘ひとつ仰らず、お勉強もお稽古も熱心に励まれる。その健気さに、私は日々心打たれておりました。
やがてお嬢様はどんな花よりも美しくご成長なさり、人々はお嬢様を「聖女」と呼ぶようになりました。ご多忙なご両親に代わって、恐れ多くも私が育てたお嬢様は心優しく清らかで正真正銘の聖女でございました。
聖リリス女学院にご入学後は白百合寮に入られましたが、時折美しい筆致でお手紙をくださいます。
さゆりお嬢様をお姉さまと慕う“妹”の雛森透さま。
お嬢様の一番の親友・乙木佳乃子さま。
黒薔薇寮の寮長で幼なじみでもある笠吹蘭華さま。
弓道部で切磋琢磨している姫宮渚さま。
笠吹さまの妹で同じく幹部生の筒見流奈さま。
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