君に花を贈る
「うん。やっぱり似合う。花音ちゃんは背が高くて、姿勢がきれいで、顔立ちも華やかだから、大きな花がよく映える。これくらい迫力がある方が、花音ちゃんの可愛さをもっと引き立てられると思う」
「……そう……なんでしょうか」
「うん」
「なんで、そんなに自信ありそうに言えるんですか」
「自信なんかないよ。でも、俺は花のことしか知らないからさ。花のことだけは、ちゃんと胸を張って言えると思ってる」

 かっこいいなあ、もう。

「あ、クッキーもうないね。まだたくさんあるから、良かったら持って帰って」
「……ありがとうございます。その……このシャクヤクも、いただいてもいいですか?」
「もちろん。ちゃんと包むよ」

 シャクヤクは透明なシートに包まれて、クッキーと一緒に紙袋へ入れてくれた。
 いつも通り、車まで送ってくれた。

「あの……今日はありがとうございました。クッキーも、シャクヤクも」
「どういたしまして。気をつけて帰ってね」
「……センスって、どうしたら身につくんでしょうか?」

 不意に聞いた問いに、藤乃さんは少し瞬きをしてから、ゆっくりと答えてくれた。

「上手だなって思う作品を、ちゃんと見ること。あとは、いろんな作品に触れることかな。……まあ、偉そうなこと言えないけど。俺も、つい好き嫌いしちゃうしね」
「……そうなんですね。ありがとうございます。また来週……今度は、アジサイをお持ちしますね」
「うん。待ってる」

 軽く会釈をしてから、車を出す。
 私が「上手だな」って思うものって、なんだろう。
 信号待ちの間、助手席に置かれたシャクヤクとクッキーの紙袋を、そっと横目で見つめる。
 ラジオからは、聴き慣れないロックバンドの曲が流れていた。
 好き嫌いしないで、ちゃんと聴いてみようかな。
 ラジオのボリュームを少しだけ上げて、慣れないロックのメロディを、そっと口ずさんでみる。
 
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