君に花を贈る
「そういえば、展覧会に何かあるんですか?」
「んー……、なんで、そう思ったの?」
「なんでだろう……すごく人気なのに、『行けない』じゃなくて『行かない』って言ってたので。お誘いしたときも、あんまり乗り気じゃなかったですし……」
そう言って、藤乃さんは「花音ちゃんは鋭いねえ」と、いつもより落ち着いた低い声で言った。
「隠してても仕方ないし……言っちゃうけど、この展覧会をやってるSUZUって、俺の従姉妹なんだ。チケットも、本人が持ってきたんだよ」
「えっ、そ、そうなんですか……?」
「うん。会場で使ってる花の、半分以上は俺が選んだ」
さらっと言ってたけど、すごいことだよね……?
SUZUさんって、年に一度は個展を開いてて、テレビにも時々出てるくらいの有名なフラワーアーティスト。その花の半分を、藤乃さんが……?
藤乃さんは信号が変わったのを見て、静かにアクセルを踏み込んだ。
「……俺が小学生から中学生くらいの時に、SUZU……鈴美の父親が俺を目の敵にしててさ。会うたびに怒鳴られてたんだ。十年いかないくらいかな。鈴美と比べて出来損ないとか、不出来な愚図ってさ。母親が気づいて、もう会わなくなったけど……まあ、好きにはなれないよね」
……私、なんて声をかけたらよかったんだろう。
だから瑞希は、“トラウマ”って言ったんだ……。
そこからどうなって、展覧会のチケットを受け取ることになったんだろう。
私、この人のこと……本当に何も知らなかった。
「……ごめんなさい。私、何にも知らなくて……余計なこと、言っちゃって……」
でも藤乃さんは、さっきと同じ落ち着いた声で、ゆっくりと答えてくれた。
「ううん、いい機会だったし……でも、たぶん鈴美に会ったら、俺ちょっとイラつくと思うからさ。花音ちゃん、隣にいてくれる? いてくれたら、たぶん大丈夫」
「私でよければ……ずっと一緒にいます」
「ありがと」
いつの間にか、車はゆっくり駐車場に入っていた。混んでたけど、なんとか空きを見つけて止める。
車を降りて歩き出すと、藤乃さんが私のほうを振り返った。
「ごめんね、かっこ悪いとこ見せちゃって」
「大丈夫です。藤乃さんのかっこよさは、それくらいじゃ変わりませんから」
「……花音ちゃんのほうが、ずっとかっこいいよ」
「かっこいいより、かわいいって言われたいです」
「いつもかわいいよ。今日の服もかわいいし、いつもの作業着もかわいい。会うたびにかわいくてびっくりしてる。写真撮って待ち受けにしていい?」
「……だ、ダメです」
やっと藤乃さんが少し笑ってくれた。
「んー……、なんで、そう思ったの?」
「なんでだろう……すごく人気なのに、『行けない』じゃなくて『行かない』って言ってたので。お誘いしたときも、あんまり乗り気じゃなかったですし……」
そう言って、藤乃さんは「花音ちゃんは鋭いねえ」と、いつもより落ち着いた低い声で言った。
「隠してても仕方ないし……言っちゃうけど、この展覧会をやってるSUZUって、俺の従姉妹なんだ。チケットも、本人が持ってきたんだよ」
「えっ、そ、そうなんですか……?」
「うん。会場で使ってる花の、半分以上は俺が選んだ」
さらっと言ってたけど、すごいことだよね……?
SUZUさんって、年に一度は個展を開いてて、テレビにも時々出てるくらいの有名なフラワーアーティスト。その花の半分を、藤乃さんが……?
藤乃さんは信号が変わったのを見て、静かにアクセルを踏み込んだ。
「……俺が小学生から中学生くらいの時に、SUZU……鈴美の父親が俺を目の敵にしててさ。会うたびに怒鳴られてたんだ。十年いかないくらいかな。鈴美と比べて出来損ないとか、不出来な愚図ってさ。母親が気づいて、もう会わなくなったけど……まあ、好きにはなれないよね」
……私、なんて声をかけたらよかったんだろう。
だから瑞希は、“トラウマ”って言ったんだ……。
そこからどうなって、展覧会のチケットを受け取ることになったんだろう。
私、この人のこと……本当に何も知らなかった。
「……ごめんなさい。私、何にも知らなくて……余計なこと、言っちゃって……」
でも藤乃さんは、さっきと同じ落ち着いた声で、ゆっくりと答えてくれた。
「ううん、いい機会だったし……でも、たぶん鈴美に会ったら、俺ちょっとイラつくと思うからさ。花音ちゃん、隣にいてくれる? いてくれたら、たぶん大丈夫」
「私でよければ……ずっと一緒にいます」
「ありがと」
いつの間にか、車はゆっくり駐車場に入っていた。混んでたけど、なんとか空きを見つけて止める。
車を降りて歩き出すと、藤乃さんが私のほうを振り返った。
「ごめんね、かっこ悪いとこ見せちゃって」
「大丈夫です。藤乃さんのかっこよさは、それくらいじゃ変わりませんから」
「……花音ちゃんのほうが、ずっとかっこいいよ」
「かっこいいより、かわいいって言われたいです」
「いつもかわいいよ。今日の服もかわいいし、いつもの作業着もかわいい。会うたびにかわいくてびっくりしてる。写真撮って待ち受けにしていい?」
「……だ、ダメです」
やっと藤乃さんが少し笑ってくれた。