愛しのマイガール

「……あの時は…ああいうしかなかったんだよ」

「……」

言い訳だ。そんなもの、今更聞きたくない。

「記事で見た。月城の御曹司と婚約なんて、本気なのか?」

口にされたその名前に、思わず身構える。

「やめ…っ、来ないで…!」

「瑠璃、頼む。聞いてくれ」

彼はまた一歩、私に近づいた。

「本当に悪いと思ってる。でも、やり直せたらって……つい考えるんだ。お前も……俺と同じで、力のあるやつに利用されてるだけなんじゃないかって」

「──!」


一瞬、言葉の意味が呑み込めなかった。

でもすぐに分かった。
この人は、何ひとつ変わっていない。

自分の都合で私を捨てて、今になって勝手に“やり直せたら”なんて口にして、そのうえで、ハルちゃんのことまで、侮辱した。

(……ふざけないで)

怒りが、喉の奥でぐらりと沸き上がる。

彼がどれだけ真剣に私を想い、どれだけ誠実に手を伸ばしてくれたか——

あなたに、何が分かるというの。


あまりにも身勝手で、あまりにも浅はかで。
その一言で、何かが音を立てて切れた。

「……もう、やめて」

私は一歩、後ろへ下がった。
懐かしさも、痛みも、すべてを押しとどめて、はっきりと言った。

「私はもう、戻らない。あなたの言葉で、私の心は動かない」

「瑠璃……」

「例えどんなことを言われたって……あの時、翔真さんにされたことが、私にとってはすべてだもの」

彼の顔から、少しずつ表情が剥がれていく。何かを言おうと口を開いた彼より先に、私は背を向けた。

足が震えていた。けれど、これは逃げじゃない。

背中で、彼の声が何かを追いかけてくる。でも私は、もう振り返らない。英子さんの待つ方へ、まっすぐ歩き出す。


——私の気持ちは、もう二度と、揺るがない。

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