愛しのマイガール
足がぴたりと止まり、呼吸も浅くなる。
聞き間違いであってほしい——
そう願いながら振り向いた私は、その場で凍りついた。
人波の中に立っていたのは、翔真さんだった。スーツ姿は以前と変わらず整っているのに、どこか覇気がない。
目の下にうっすらと影を落としながら、それでも懐かしげに、私を見ていた。
「久しぶりだな……元気、だったか?」
声も、表情も、あの頃と同じように柔らかかった。けれど、その響きが私の胸をざわつかせる。
心の奥に沈めた記憶の底が、不意に掻き乱される。
「……どうして、ここに」
「偶然だよ。仕事で近くに来てて……たまたま見かけたんだ」
そう言って翔真さんは苦笑した。
言葉だけ聞けば、ただの偶然の再会。だけど視線は妙に真っ直ぐすぎて、胸がざわつく。
彼がここにいるのは多分、仕事なんかじゃない。
「少し、話せないか。ここじゃなくて、静かなところで……」
その目に一瞬だけ戸惑いが浮かんだ。でも次の瞬間には、それを隠すように優しげな表情を作っていた。
「…瑠璃にだけは、ちゃんと謝りたかったんだ。あんな形で終わらせて……ほんとは、ずっと、胸に引っかかってた」
私の胸が、少しだけ軋む。
そうだった。彼はいつも、“後から”言葉をくれる人だった。
「……だったら、どうしてあんなこと言ったの?」
九条さんからの連絡のあと、私はすぐに話を聞きたくて電話した。それを無視して、「いつ本気だっていった?」と返してきたのは、翔真さんの方なのに。
沈黙ののち、翔真さんはわずかに顔を伏せた。