愛しのマイガール
話題が一段落した頃、最初にスマホを差し出した男は静かに席を立った。
廊下に出ると、周囲を一瞥しながらスマートフォンを取り出し、ひとつの番号に発信する。
数コールの後、通話が繋がった。
「……例の件、上手くいってます。写真も、予定通り拡散され始めました。ネットの反応も順調です」
電話の向こうの声は、静かに問いかけてくる。
「ええ、“彼女の素行に疑問符”という形で進めています。名前は出さずに印象だけ刷り込む。週明けには、もうひと押しできるはずです」
受話器越しの声はほとんど無感情だったが、それでもどこか愉しげな温度を含んでいた。
「……はい、“見えない火”は、いつだって一番よく燃えますから」
通話が切れる。
男は再びスマートフォンを胸ポケットに収め、ラウンジへと戻っていった。
何事もなかったような顔で、グラスのワインを傾けながら。
——その後ろに潜む者に気付くものは、この場には誰もいなかった。