愛しのマイガール

「法務部に通達しろ。記者クラブと広報にも情報を回す。例の訴訟も即時準備だ」

怒りに突き動かされるのではない。これは冷静な判断だ。それでも、胸の奥に燃えさかるものがあるのを自覚していた。

俺のいない場所で、あの女が瑠璃に何を言ったのか。その顔が、声が、瑠璃の胸にどんな傷を刻んだのか。想像しただけで、呼吸が浅くなる。

「守るだけじゃ終わらない。……俺の女に手を出したこと、後悔させてやる」

ふたりの未来も、この愛も、誰にも汚させない。

俺はスマートフォンを握りしめたまま、静かに目を伏せる。

胸の奥に滾る怒りと、切り裂くような焦り。けれど、それを表に出すことはしない。

隣で天城が淡々と指示を出し始めた。
すべては想定内。いや、これからが本番だ。

「天城、例の資料も手配しておけ。薫子の息のかかった連中もまとめて炙り出す」

「了解」

俺は立ち上がり、窓の外を見やった。

昼の街は、まるで何事もないかのように光と音に満ちている。だがこの街のどこかで、瑠璃は今も薫子と向き合っているのだ。

思い浮かぶのは、あのまっすぐで、不器用なくらい優しい琥珀の瞳。

もう、守るだけの恋じゃない。
るりが笑っている未来を、奪い返す。

俺は背広のボタンをかけ直す。昼の陽射しがガラスに反射し、強い光が俺の視界を遮る。

それでも、迷いはもうどこにもなかった。
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