愛しのマイガール
ふいにノックの音が聞こえた。私は驚くこともなく、「どうぞ」と声をかけた。
返事の代わりに静かにドアが開いて、ハルちゃんが現れた。
いつもの冷静で隙のないスーツ姿。けれど、どこかその表情は柔らかく見えた。
「おはよう、るり」
外でどれだけ騒がれていても、彼の纏う空気は澄んでいて、きれいだった。
ハルちゃんはのんびりとした足取りで部屋に入り、ソファに腰を下ろす。
彼に促されるまま、私もその隣に座った。
「記事はもう見たか?」
「見たよ。……やっぱり、ハルちゃんはすごい人なんだなって思った」
「そりゃあな。るりを手に入れるために築いてきた地位だ。これだけ情報で囲い込めば九条もそう易々とは手を出せないだろう。あっちも月城を表立って敵には回したくないはずだからな」
その声に、微かな決意と、独占欲が混じっていた気がした。
「警備は増やした。ホテル側にも伝えてある。必要があればすぐ別の部屋にも移れるから、不安があったら何でも言えよ」
落ち着いた声。
いつものように、優しく甘やかすような話し方。
彼は、私が何も言わなくても、こうして守ってくれる。
「ありがとう。……たくさん、気を遣ってくれて」
“ありがとう”の奥にある気持ちを、どう言葉にすればいいのか分からなかった。
私は今、彼の守りの中にいる。たしかに、包まれている。
でも——本当にこのままでいいの?
守られてばかりで、何もできないまま。
彼の世界に、ただ乗せられているだけで。
私の気持ちは、まだ……追いつけていないのに。