愛しのマイガール
「巴琉様。失礼いたします」
「どうした?」
「弁護士の天城様より、至急のご連絡がございました。お時間いただけますでしょうか」
「……わかった。戻ろう」
うなずいたとき、るりの表情がわずかに陰ったのが視界の端に映った。
「……何か、あったの?」
小さく問いかける声は努めて落ち着いていたけれど、不安は隠せていなかった。どこか、息をひそめるような瞳をしている。
彼女の中であの出来事の影は、まだ完全には癒えていないのだろう。
「たぶん、九条側の動きだろうな。予想より少し早いだけだ。問題ない」
本心では、彼女をこうした話から遠ざけておきたかった。けれど俺を見つめる瞳には、微かに強い光が宿っていた。
そう思った瞬間、俺は静かに彼女の手を取った。
「大丈夫。俺がいる。俺がるりを守るから」
それは約束じゃない。俺自身の覚悟だ。
「……うん」
るりは短く頷き、ぎゅっと手を握り返してくれた。
その力はほんの少し震えていたが、逃げるような弱さはなかった。
俺は彼女の手を離さず、そのまま邸内へと歩を進める。
この先にある現実がどんなに冷たくても、少なくとも、今この手は確かに繋がっている。
いつか彼女が怖さで立ち止まってしまったとしても、俺はその手を引ける存在でありたいと心から思う。
静かな夜の余韻が、ふたりの背中に柔らかく落ちていた。
少しだけ張り詰めた空気を含んだまま、俺は扉の向こうの現実に向き合う覚悟を決めた。