愛しのマイガール
声を低く落とす。手にした書類を机に置きながら、自然と指先に力がこもっていた。
「反訴の準備は?」
「すでに進めてます。榊氏が婚約を隠して交際を続けた責任、そして蓬来さんが受けた精神的ダメージや名誉の損害に対して、こちらから正式に訴えることができます。どうしますか」
「やる。黙っていたら、あいつらの思うつぼだ」
「ただし、専務。これは泥試合になります。九条側も簡単には引かないでしょう。メディアに情報が出る可能性もあります」
「……それでも、俺は引かない」
わかっている。これはただの恋愛の問題じゃない。社会的立場やプライドが絡んだ、本気の戦いだ。
けれど——
「本当なら、るりには知らせず終わらせてやりたかったが……」
「伝えずに進めるのは不可能です。彼女はすでに当事者です」
「分かってる」
短く息を吐き、目を伏せる。
ただでさえ傷ついたあの子に、この現実は重すぎる。だが世間まで巻き込むとなれば、必然的に関わりは避けられないだろう。
「だからこそ俺の口から伝える。全部受け止めると伝えた上で、ちゃんと彼女に話す。もうひとりで苦しませたくないんだ」
天城は一瞬黙り込んだのち、静かに頷いた。
「……承知しました。必要な資料はすべて整理してお渡しします」
「悪いな。あと少しだけ、時間をくれ」
窓の向こう、雲間から鈍い光が差し込んでいた。その先に、まだ眠っているるりの姿が浮かぶ。
たとえどんな泥をかぶっても、俺の手で、るりの名誉を取り戻す。
それが、俺の誓いだ。