宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
「……そうか」

帝の表情が、ふっと緩んだ。

それは安心であり、安堵であり――恋する男の、素直な喜びだった。

その時、雅綱は一つ思い出したように言葉を継いだ。

「そう言えば……大納言殿が、位を退きたいと願い出ております。」

帝はその意図をすぐに読み取る。

大納言――綾子の父がかつてその座にあった者。

その職は、娘を“女御”に推薦できる家格とされている。

「……妃に、できるか。」

帝の声に、雅綱は恭しく、しかし迷いなく答えた。

「――はい。形式は、整えられます。」

綾子を正式な女御に――

それはただの恋では終わらせない、帝・彰親の決意の始まりだった。

ほどなくして、綾子の父――藤原伊継は、異例の人事で大納言に再任された。

それは、彰雅帝の強い意志と、右大臣・雅綱の周到な後押しによるものだった。
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