金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う
「申し訳ありません」
 眞白は素直に謝る。頭を下げると、髪からぽたぽたと雫がしたたった。

「せんだって街で買った着物を見せてあげようと思ったのに!」
「申し訳ありません。素敵なお召し物でございます」

「そうでしょう? 絹のこの光沢、なめらかさ。あんたには価値がわからないわね!」
 華やかな花が描かれた赤い振袖に金地の帯を締めている。どちらもつややかで、絹を見慣れない眞白にも高級な代物だとわかった。
「街は素敵よ。電気が通っていて、夜でも明るいの。外国から入って来たものもたくさん売られてて! あんたは一生行けないでしょうけどね」

 眞白をみじめにするための自慢も日常茶飯事だ。
 このまま終わってくれるかなと期待したが、無理だった。

「それで、ちゃんと採ったの?」
「ワラビやフキノトウはありませんでしたから、これを採ってきました」
 おずおずと差し出したものを使用人が受け取り、沙代に渡す。一部は踏みにじられたせいで潰れ、青い汁が滲んでいる。
 沙代はかごを手にとると、眞白に向かってぶちまけた。

「なによこれ! 雉の餌でもとってきたの!?」
「すみません」
 眞白はただ頭を下げた。足元にいたコウヤが、ケーン、と鳴く。

「お使者様のごちそうがないわ。せっかく遠いところを起こしなのに……そうだわ!」
 沙代はわざとわしく言葉を切った。
 眞白の前にいた男性が後ろにまわり、開いていた勝手口の扉を閉める。

「眞白、ソノキジヲシメテ。コンヤノゴチソウニダスノヨ」
 なにを言われたのか、一瞬、理解できなかった。

 その雉をシメて。今夜の御馳走に出すのよ。
 反芻し、理解したときには全身から血の気が引いた。

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