今日も推しが尊いので溺愛は遠慮いたします!~なのに推しそっくりな社長が迫ってきて!?~
始業ベルが鳴ってちょうど一時間、時計の針が午前十時を回った頃。

秘書室長の案内で、とうとう彼が現れた。

「それでは、新社長からごあいさつをいただきます」

秘書室はほかの部署に比べたらそう広くはない。窓を背にした上座に秘書室長のデスク、芽衣子たち平の秘書の席は五名ずつふたつの島に分かれている。

彼――新社長は室長のデスクの前に立ち、こちらに顔を向けた。

かなりの長身、おそらく百八十センチ以上あるだろう。そして均整の取れた引き締まった身体つき。仕立てのよいパリッとしたライトグレーのスーツがよく似合い、モデルのようだ。

艶のある黒い髪は自然にセットされていて、形のよい額がのぞく。意思の強さが見て取れる凛々しい眉、スッとまっすぐな鼻梁、濡れたようなきらめきが印象的な黒い瞳。頬から顎、首元のラインも一分の隙もなく完璧に美しい。

この場の全員から「ほぅ」という言葉にならない感嘆のため息がこぼれた。

「今月から社長に就任します夏目雪雅(なつめゆきまさ)です。どうぞよろしく」

脳に直接響くような心地よいバリトン、硬質さのなかにわずかな甘さを含み……色気のある声とは、こういう声音を指すのだろう。
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