今日も推しが尊いので溺愛は遠慮いたします!~なのに推しそっくりな社長が迫ってきて!?~
「厳しい人だったら、嫌ですよねぇ」
「へ?」
「ほら、例の新社長ですよ。今日からの予定でしょう」

いつの間にか、異業種交流会から仕事へと話題が変わっていたようだ。

「あぁ、そうだったわね」

このたびグループ全体で役員人事の刷新があり、ナツメ開発も新社長を迎えることになった。その人はグループの創業一族である夏目家の直系……いわゆる御曹司なんだそう。

「まだ三十そこそこだって聞きました。若すぎて、ちょっと不安ですよね」
「そうねぇ」

ナツメ開発は歴史もある、どちらかといえば古風な体質の企業だ。前社長はおじいちゃんと呼んでいい年齢だったし、一般社員の場合は三十代なら課長になれていればかなり優秀という感じの出世ペース。いくら御曹司とはいえ三十歳でのトップ就任に、社員はみな思うところがある様子だ。

「まぁ、実力は年齢に比例するわけじゃないから」

そんなふうに当たり障りのない回答をしたけれど、芽衣子だって正直なところ……実力ではなく血筋ありきの抜擢なんだろうなと思っている。

(厄介なタイプで残業が増えたりするのだけは勘弁してほしいな。ルイさんに会える時間が減っちゃうもの)

そんなことを考えている間に始業のベルが鳴り、ふたりはお喋りをやめて自分たちの業務に集中しはじめる。

入社時は現場でバリバリ働く自分を想像していたので、秘書室というバックオフィスに配属されたときはやや肩透かしを食らったような気分になった。だが、実際に仕事をしてみると秘書という仕事は芽衣子の性に合っていて、人事部の見る目は確かだったのだなと納得させられた。

一分単位で刻まれる役員のスケジュールを細かく把握し、あちこちに気を配ったり根回しをしたり。根っからのオタク気質な芽衣子は、こういう細々した業務を完璧にこなすことに難しい攻略ルートを達成したときのような満足感を覚える。

それに、企業のトップに立つ人間が事業をどう考えてどう戦略を立てていくかを間近で学べるのは大きなメリットだった。
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