紳士な弁護士と偽りデートから
音信不通にした元カレが会社に!
他の会社からハンティングされてきた彼、藤沢匠を見るたび、橘あかりはドキドキしていて、心中、いつも、
(どうか会いませんように!)
と、祈っていた。
まさか音信不通にした元カレが、会社にいるとは......。
ロビーのトイレに向かう途中、
「あれ? ひょっとして橘?!」
聞き覚えのある男性に声を掛けられて振り向くと、
「......え? 匠!?」
あかりはおどろく。
幼なじみだった彼と、同じ会社に遭遇した。
「どうして?」
「俺、ここの営業任されちゃってさ」
匠はニコニコしながら言った。
「こんな偶然って、あるのね」
「ほんと驚いたよ。サラサラヘヤーに見覚えあったから、一か八か声を掛けてみたら振り向いてくれてよかった」
5年振りにあった匠の性格は変わらない。サラサラサラヘヤーな女性はいっぱいいるだろうが、口が上手いところは、確かに営業向けだろう。
大学は別の進路で、20才まで付き合っていたが、やがて会わなくなって、自然消滅という最悪な結果となっていた。
だから自然と、声を掛けてくれたのかもしれない。
「仕事終わったら会わない?」
ニコニコ話す匠は嫌いじゃなかった。
そこは変わらないのね、なんてあかりは懐かしく思い、
「ええ、いいわよ」
なんて答えを出した。
「やった。そう言えば、橘って、何部?」
「経理部」
「相変わらず、計算は好きなんだな」
橘はハハッと笑う。少し言い方に引っ掛かりはしたものの、キョトンとしたくらいですぐに忘れた。
「LINEにメッセするから」
「うん。終わったら、ひとまず玄関前で待ってる」
「あー、それはマズイから、駅で待っててよ」
マズイ?
「だからLINEするから、それでいいよな」
ちょっと強引だけど、あかりは頷く。マズイって何かしら? 久し振りにあった匠の会話は、引っ掛かることばかりだった。
残業があまりない経理は、ほぼ5時で上がる。
5年振りに匠のページを開いて、
《終わったんだけど、駅でいい?》
と、LINEをした。
すぐに既読が付き、
《一時間くらい掛かるから、どっかヒマを潰しといて》
の、メッセージ。
《カフェで待ってるね》
《なら付き合っていたころのカフェにしてくれる? 懐かしいからさ》
......遠くない? なんて思う。電車で20分くらい掛かる。まぁ、いっかな。あかりは軽い気持ちで答えた。
電車は混んでいて、外の風景すらみれず、懐かしい、なんて、懐かしむことが出来なかった。
駅から降りて、数分の場所。ありがちなチェーン店だけど、懐かしい。
ひとまずコーヒーを頼んだ。
あれから二時間過ぎても連絡がこない。
7時ちょっと過ぎか......。あかりはもう少し待ってみようと思った。家に帰ってもやる事は同じルーティンだけだ。
スマホのゲームをポチッていると、匠からのLINEが来た。
《悪い! 8時過ぎる!》
えっ? お腹空いたし、もう断ろうかな、そんなLINEを入れる。すぐ既読がつき、
《俺も腹減ったー》
というLINEが返ってきた。その言葉に母性本能がくすぐられ、あかりは待つことにした。
匠がやっと来たのは、夜の9時を回るところだった。
「ごめんごめん! すっかり遅くなっちゃったよ! お詫びにフレンチ予約しといたからさ、食べに行こう!」
「開いてるの?」
「10時まで開いてるところだから。ほんとごめんね」
「ううん、大丈夫よ。でもフレンチ高くない?」
「気にしないで」
匠は微笑み、そのお店に向かった。
会話も楽しく弾み、食事が終了したのはもう11時過ぎ。終電は過ぎている。
「タクシーを呼べるかしら」
あかりはスタッフに聞いて見ると、匠はそれを断る。
「いや、いいです」
「どうして?」
「久し振りの再開じゃない」
その言葉に、とくんッと胸が高鳴る。ワインが美味しくてたくさん頂いたからだ。
それに、一つ気になることがある。匠には特定の人はいないのだろうか。週末でこんな時間だし、まぁ、聞く方がヤボだろう。あかりは一人で納得した。
ホテルはそこら辺ではなくて、一流のホテルを取ってくれた。
「橘にはすまないと思っていたんだ。連絡をしないままだったろう」
あかりは首を横に振った。どうでもよかったなんていえない。
それから、一夜を明かし、匠がいないのに気付いた。まだ暖かい。ガウンを着ると、匠は誰かに電話をしていた。
「ごめんごめん! 終電逃がしちゃって、泊まっていたんだ。美穂」
別の部屋から匠が、女性に連絡をしていた。あかりが眠っていたと思い込んで、名前を言ったのだろう。
あかりは名前を聞いて目を剥いた。
うかつだった。信じられない!
(どうか会いませんように!)
と、祈っていた。
まさか音信不通にした元カレが、会社にいるとは......。
ロビーのトイレに向かう途中、
「あれ? ひょっとして橘?!」
聞き覚えのある男性に声を掛けられて振り向くと、
「......え? 匠!?」
あかりはおどろく。
幼なじみだった彼と、同じ会社に遭遇した。
「どうして?」
「俺、ここの営業任されちゃってさ」
匠はニコニコしながら言った。
「こんな偶然って、あるのね」
「ほんと驚いたよ。サラサラヘヤーに見覚えあったから、一か八か声を掛けてみたら振り向いてくれてよかった」
5年振りにあった匠の性格は変わらない。サラサラサラヘヤーな女性はいっぱいいるだろうが、口が上手いところは、確かに営業向けだろう。
大学は別の進路で、20才まで付き合っていたが、やがて会わなくなって、自然消滅という最悪な結果となっていた。
だから自然と、声を掛けてくれたのかもしれない。
「仕事終わったら会わない?」
ニコニコ話す匠は嫌いじゃなかった。
そこは変わらないのね、なんてあかりは懐かしく思い、
「ええ、いいわよ」
なんて答えを出した。
「やった。そう言えば、橘って、何部?」
「経理部」
「相変わらず、計算は好きなんだな」
橘はハハッと笑う。少し言い方に引っ掛かりはしたものの、キョトンとしたくらいですぐに忘れた。
「LINEにメッセするから」
「うん。終わったら、ひとまず玄関前で待ってる」
「あー、それはマズイから、駅で待っててよ」
マズイ?
「だからLINEするから、それでいいよな」
ちょっと強引だけど、あかりは頷く。マズイって何かしら? 久し振りにあった匠の会話は、引っ掛かることばかりだった。
残業があまりない経理は、ほぼ5時で上がる。
5年振りに匠のページを開いて、
《終わったんだけど、駅でいい?》
と、LINEをした。
すぐに既読が付き、
《一時間くらい掛かるから、どっかヒマを潰しといて》
の、メッセージ。
《カフェで待ってるね》
《なら付き合っていたころのカフェにしてくれる? 懐かしいからさ》
......遠くない? なんて思う。電車で20分くらい掛かる。まぁ、いっかな。あかりは軽い気持ちで答えた。
電車は混んでいて、外の風景すらみれず、懐かしい、なんて、懐かしむことが出来なかった。
駅から降りて、数分の場所。ありがちなチェーン店だけど、懐かしい。
ひとまずコーヒーを頼んだ。
あれから二時間過ぎても連絡がこない。
7時ちょっと過ぎか......。あかりはもう少し待ってみようと思った。家に帰ってもやる事は同じルーティンだけだ。
スマホのゲームをポチッていると、匠からのLINEが来た。
《悪い! 8時過ぎる!》
えっ? お腹空いたし、もう断ろうかな、そんなLINEを入れる。すぐ既読がつき、
《俺も腹減ったー》
というLINEが返ってきた。その言葉に母性本能がくすぐられ、あかりは待つことにした。
匠がやっと来たのは、夜の9時を回るところだった。
「ごめんごめん! すっかり遅くなっちゃったよ! お詫びにフレンチ予約しといたからさ、食べに行こう!」
「開いてるの?」
「10時まで開いてるところだから。ほんとごめんね」
「ううん、大丈夫よ。でもフレンチ高くない?」
「気にしないで」
匠は微笑み、そのお店に向かった。
会話も楽しく弾み、食事が終了したのはもう11時過ぎ。終電は過ぎている。
「タクシーを呼べるかしら」
あかりはスタッフに聞いて見ると、匠はそれを断る。
「いや、いいです」
「どうして?」
「久し振りの再開じゃない」
その言葉に、とくんッと胸が高鳴る。ワインが美味しくてたくさん頂いたからだ。
それに、一つ気になることがある。匠には特定の人はいないのだろうか。週末でこんな時間だし、まぁ、聞く方がヤボだろう。あかりは一人で納得した。
ホテルはそこら辺ではなくて、一流のホテルを取ってくれた。
「橘にはすまないと思っていたんだ。連絡をしないままだったろう」
あかりは首を横に振った。どうでもよかったなんていえない。
それから、一夜を明かし、匠がいないのに気付いた。まだ暖かい。ガウンを着ると、匠は誰かに電話をしていた。
「ごめんごめん! 終電逃がしちゃって、泊まっていたんだ。美穂」
別の部屋から匠が、女性に連絡をしていた。あかりが眠っていたと思い込んで、名前を言ったのだろう。
あかりは名前を聞いて目を剥いた。
うかつだった。信じられない!
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