影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
けれど――

奥の座敷からは、怒鳴り声に近い口論が聞こえてきた。

「私は嫌よ。あんな年上の人に嫁ぐなんて、考えただけで鳥肌が立つわ。」

「梨子、何度も言っているだろう。これは家同士の取り決めだ。」

「でも、お父様! 三十五歳の男に十八の私が嫁ぐなんて、どうかしてるわ!」

そう言って畳を叩く音に、私は立ち止まってしまった。

姉が、こんなにも感情を露わにしている姿は初めてだった。

そのとき――ふいに、姉の鋭い視線が私に向けられた。

「……梨沙? どうしたの?」

「ええっと……お姉様のご婚約が決まったと伺って、お祝いをと思って……」

私が頭を下げると、姉はしばらく私を見つめたまま、口元をひきつらせるように笑った。

「……そう。よく来てくれたわね。」

その笑顔は、少し不自然で――

どこか、冷たい予感をはらんでいた。
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