影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「家と家を繋ぐ。それは、女にしかできぬ役目だ。」

私は静かに膝を折ったまま、頷いた。

「……はい。」

その瞬間、小太郎君の優しい声が脳裏に浮かんだ。

「俺は、お嬢様がいい。」

あの言葉は、夢だったのだと知る。

(私はもう、誰かに“好きだ”と言われる人生を選べない)

私はただ、父の言う相手に嫁ぎ、妻として、静かに、役目を果たす。

愛などいらない。

夫婦として、ただ生活を営めばそれでいい。

心を動かしてはいけない。

望んではいけない。

傷つかぬように、誰にも近づかずにいれば――

私は、誰にも必要とされぬ娘から、「家にとって必要な妻」へと変われるはずだった。

しばらくして、本家の姉・梨子様の婚約が決まったと聞いた。

お祝いを兼ねて、私は久方ぶりに本家の母屋を訪ねた。

金襴緞子の打掛が飾られ、女中たちが忙しなく動いている様子に、

(もう、婚礼の支度が始まっているのだな)と、私は静かに胸を弾ませた。
< 5 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop