三度目の結婚 〜最初から相手は決まっていたようです〜

13

 コーディアナは二度、三度とまばたきをした。
 南国のうだる暑さで頭がぼんやりしているのかもしれない。
 だから祖国の亡霊を見ているのだろうか。それにしても趣味が悪い。嫌いな男の幻を見るなんて。
 
「俺は幻じゃないし死んでもいない」
「わたしの! 頭の中を! 読まないで!」
「いや全部おまえが口から垂れ流してるんだが」
「うるっさい」

 コーディアナは一喝し、彼女のかたわらでひざまずくエリンに目をやった。

「エリン、正直に答えて」
「はい、コーディアナ様」
「いくら渡されたの」
「ふふ、金銭ではございません」
「やだ、やだ、何もらったの?」
「形のないものでございます」
 
 コーディアナはおそれおののいた。
 金品にのみ価値を見出すあのエリンが、形のないもの、などと世迷言を言い出したのだ。
 はっきり言っておそろしい。

「愛……とか言わないわよね?」

 身分差恋愛は物語の中でのみ幸せになれる。現実はまあ、厳しい。

「いやですわ、そんな薄ら寒くて薄っぺらい言葉、口に出さないでくださいな」

 冷たい一瞥を食らったが、コーディアナはむしろ胸をなでおろした。
 エリンの次の発言を聞くまでは。

「わが弟に第二神官長の位をいただきました。もったいないことでございます」
「権力ですか、そうですか……!」

 コーディアナはがっくりとこうべを垂れた。
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