奪う
 長期間殺人欲求を我慢していた分だけ気が立っていた。リモコンが破損するほどに殴り続け、男の顔面が血塗れになっても殴り続け、男が口を開けて動かなくなっても殴り続けた。ハイになっていた。全身を突き抜けるような快感を覚えていた。

 暴力を振るっていた手が疲労を感じ始めたところで、彼は連続の殴打をやめる。凶器に使用したリモコンを捨てるように手放し、巨大な生物からもパッと手を離す。襟元が格好悪く伸びていた。

 霧が晴れたようにすっきりした気持ちで息をする。殴殺する前と比べて、胸の通りがとてもいい。人を殺した時の心地良さは何度経験してもいいものだ。癖になる。また味わいたいと彼は思う。

 それにしても、今回の殺し相手は気持ちの悪い変態だった。殺してしまえばただの肉塊に過ぎないが、その死に様も、死に顔も、不快なもので救いようがない。

 醜い姿を晒している男を見下ろす。胸が上下していないことを確認したが、異様な生命力を発揮されては都合が悪い。彼は丸太のように太い男の首を足で思い切り踏みつけた。骨を折るつもりで全体重をかける。念入りに殺すことは大事なことである。いくら気分が晴れたとしても、油断は禁物である。

 男は何をされても無反応ではあるが、徹底的に殺しておきたい彼は気の済むまで暴行を加え続けた。

 満足するまで殺り尽くと、無駄にエネルギーを消費してしまったのか、僅かな空腹を覚えた。この後はもう帰宅するだけだが、男の家もまた彼のアパートからは遠く離れている。運転を開始する前に何か胃に入れておきたい。彼は腹を摩りながら冷蔵庫に向けて歩みを進めた。扉を開けて中を物色するが、すぐに食べられそうなものは何もない。冷気を押し戻すように扉を閉め、続けて下の冷凍庫を開けてみる。アイスがあった。箱で販売している棒アイスだ。彼は箱から一本だけ抜き取り、開封しながら足で蹴るようにして冷凍庫を閉めた。
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