奪う
「運転、凄く丁寧で上手いですね」

「そうですか」

「余裕があって安心できます。今度はドライブでもしませんか?」

「その流れから行くと、運転するのは俺ですか」

「そうなりますね」

 簡単に言ってくれるものである。カナデは乗るだけで済むからだろうか。

 一般的に考えて、運転をしない人がドライブに誘うというのもおかしな話だと彼は思ったが、そもそも二人揃って普通の人間に見えて普通の人間ではないのだ。いちいち突っ込むことはしなかった。

 目的地を定めた上でする長時間の運転は苦ではないが、目的地を定めずにする行き当たりばったりの長時間走行は気が乗らない。カナデも本気で言っているのか、その場のノリで言っているのか。表情だけでは区別がつかない。

「暇な時にでも考えておきます」

「前向きにお願いします。また声かけますので」

 ドライブはどうかという誘いを軽く躱し、彼は車から降りた。カナデも降車したことを確認し、鍵をかける。

 数台しか車のない駐車場を抜け、カナデから先にファミレスへと足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ。二名様でしょうか?」

「はい」

「お好きな席にどうぞ」

 溌剌とした店員に歓迎される。彼も接客業をしているが、ここまで明るい接客はできたことがない。しようと努力したこともない。最低限のことしかしていないため、テンションが低く愛想のない暗い店員だと思われているだろうが、今のところ大きなクレームには繋がっていなかった。嫌味を宣うクソ客が現れた時は、絞め殺して刺し殺して焼き殺してへし折ってぶん殴って徹底的にぶっ殺せばいい。想像上の話である。客からの印象など心底どうでもいいことではあるが、好き放題嫌味を言わせる代わりだ。彼は好きに殺していた。
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