逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。

4.我慢の限度




*****



そして予想通り、あの日を境に私の学院での受難の日々が始まった。

まずあんなにも尊敬され、憧れの的だった私は、学院中の生徒から冷たい視線を向けられる嫌悪の対象となった。
そこにいないもののように扱われたり、陰口を囁かれることは日常茶飯事で。
さらにそれが加速し、私に面と向かって暴言を吐いたり、私の教科書やノートなどに手を出し、ボロボロにしたり、隠したりするなど、直接私に害をなす生徒まで現れた。


『あれはレイラ様のニセモノだ』

『あれにホンモノのレイラ様はいじめられて怯えている』

『あれのせいでホンモノのレイラ様は学院にも社交界にも戻れない』


そうあることないを口にする生徒たちの声を何度聞いてきたことか。
噂の出所はもちろんあのイザベラ様なのだろう。

しかし、日に日に風当たりが強くなる生徒たちとは違い、ウィリアム様とセオドアだけは何も変わらなかった。
もうすでに私がレイラ様ではないと知っており、私に嫌がらせをしても、どうにもならないとよくわかっている2人だからこそ、変わらなかったのだろう。

ただ2人は本当に以前と何も変わらなかった。
私が嫌がらせを受け、その現場を見ても、何事もないように私に接してくるのだ。
助けようとする素振りさえも一切見せない。
それでも、彼らが変わらず傍にいる間は、生徒たちも遠慮しているのか、あまり積極的に私に嫌がらせをしてこようとしないので、結果として、間接的に彼らに守られている形となっていた。
皆、ウィリアム様とセオドアの前では、粗相を起こしたくないらしい。

それがほんの少し私の心を軽くさせた。
彼らさえ傍にいれば、嫌がらせを受けることもない。彼らはここでの安全地帯のようなものなのだ。
あの2人が私の安全地帯になるとは、何とも皮肉なものだが。

だが、変わらない彼らに助けて欲しいとは微塵も思わなかった。
何故なら生徒たちの気持ちも、イザベラ様の気持ちもわかるからだ。
あることないこと言われていることについてはもちろん腹が立つが、それでもレイラ様の居場所を奪っていることは事実なので、私はやはり何も言えず、ただただ生徒たちの怒りの感情を静かに受け止めるしかなかった。



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