逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。
6.最後に笑うのは
1.原因と特別
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ここから出て、リリーとして好きに生きていい。
衣食住を含め、生活の全てを支援するので何も心配はいらない。
そうアルトワ夫妻に言われた私は、なかなか息苦しい毎日を送っていたが、またそんな毎日に耐えられるようになっていた。
今までとは違い、終わりが見えているからだ。
あとどのくらいでアルトワから離れられるのか具体的な日数はわからないが、私のために2人は急ピッチでことを進めてくれると言ってくれていた。
きっと1ヶ月もしないうちにここから出られるだろう、と期待も込めて私は思う。
そんな毎日を送る中で、私は常々疑問に思っていたことの答えをついに見つけてしまった。
「ゔぅ…ぅ…」
アルトワ伯爵邸内の廊下を何となく歩いていると、聞こえてきたすすり泣く女性の声。
気になってその声の方へ向かうと、レイラ様が今使っている部屋の前へとたどり着いた。
そしてたまたまほんの少しだけ扉が開いていたので、思わず中を覗いてみると、そこには静かに泣いているレイラ様と、そんなレイラ様を気の毒そうに見つめ、囲む、複数のメイドたちの姿があった。
「…私、リリーが怖いの。自分の居場所が奪われそうだからと口も聞いてくれないし、目が合えば睨むし。セオとウィルなんて、無理やり彼女に縛られて、彼女の傍にいるしかないのよ?本当に2人が可哀想だわ。でも私、怖くてリリーには逆らえないの…」
うるうるとその美しい星空のような深い青色の瞳に涙を溢れさせ、メイドたちに訴えるレイラ様はあまりにも儚げで、弱々しい。
そんなレイラ様にメイドたちは一斉に哀れみの視線を注いだ。
「レイラ様、大丈夫ですからね。私たちがアナタ様をお守りいたします」
「あのニセモノのことなら私たちにお任せを」
メイドたちがレイラ様を少しでも安心させるように優しく笑っている。
泣いているレイラ様にそれを慰めるメイド。
この光景を見て私はわかってしまった。
私への嫌がらせの原因は、まさかのあの完璧で女神様のように優しいレイラ様だったのだ、と。