逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。
2.欲しかった言葉
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「ニセモノのくせに本当、図々しい女ね」
朝、人気のない学院内の廊下を珍しく1人で歩いていると、イザベラ様たちと遭遇した。
イザベラ様を始め、イザベラ様の後ろに控えるイザベラ様の友人たちの鋭い視線に朝から嫌な気分になる。
ここにせめてウィリアム様かセオドアがいてくれれば、壁になってもらえたのだが、今はいないのでそういうわけにもいかない。これは長引きそうだ。
「レイラ様がお可哀想だわ」
「ニセモノはニセモノらしく引っ込んでおけばいいものを」
「ホンモノには敵わないからと自分こそがホンモノだと主張し続けるなんて」
早速始まったイザベラ様の後ろに控えるご令嬢たちの私を責める言葉に気が滅入る。
何故、このご令嬢たちは真実かどうかもわかっていないことを、誰かの言葉を簡単に信じて、人のことを責められるのだろうか。
「ねぇ、早く私の親友、ホンモノのレイラを返して」
状況にげんなりしていると、イザベラ様はそんな私に詰め寄り、ドンッと強く私の胸を押した。
私を押したイザベラ様に私を睨む複数のご令嬢たち。
怒りの感情に晒され続けることが息苦しくて仕方がない。
本当は今すぐでも自分がニセモノであることを認め、レイラ様がもうすぐ帰ってくることを伝えたい。
だが、アルトワの方針では一応、私とレイラ様が入れ替わるまでは、私がレイラ様なのだ。
例え、もう私がニセモノだと広まっていたとしても、その方針に逆らうつもりはない。
なので、私は未だにこちらを力強く睨み続けるイザベラ様にいつも通り淡々と応えることにした。
「ご安心ください。もう少しお待ちいただければイザベラ様の望む結果になりますので」
「はぁ!?もうその話はやめてくれる?いつもそう言うけど、結局次の日もお前がここにレイラとして来るじゃない!」
「ですが、信じていただければ…」
「お前の言葉なんて信じないわよ!このレイラから全てを奪ったニセモノが!」
ついに限界を迎えたイザベラ様が顔を真っ赤にして、右腕を大きく振り上げる。
そしてそのまま私の頬目掛けてその手を勢いよく振り下ろした。
パァンっと私たち以外誰もいない静かな廊下に私の頬を叩く音が響く。
イザベラ様に頬を思いっきり叩かれたことによって、左頬がじんじんと痛むが、だからといって怯む私ではない。
私は元没落寸前の男爵家の娘なのだ。
誰かに頬を叩かれることなんて、近所の子どもたちとの喧嘩の中でよくあったことなので、慣れていた。