灯り続ける恋心〜元カレ同期はこの恋を取り戻したい〜

彼は元カレ

私――高原(たかはら)灯里(あかり)の朝は早い。

仕事は9時から始業だけど、8時には会社に着いている。

その方が電車が空いていて、満員の乗客の中でギュウギュウに押されなくて済むのもある。

だけど、1番の理由は――

キラキラとした日差しが眩しい誰もいないオフィスで静かに仕事を始めるのが好きなのだ。


国内有数の照明器具メーカー『TAKAMAテック』は1年前、近隣に建設された綺麗なオフィスタワーに移転した。

そのためオフィスの仕様もレイアウトも大幅に変更された。

今までは「これぞオフィス」といった雰囲気で、デスクが各チームごとに並んで固められて座席も決まっていた。

座席表を見れば誰がどこにいるのか一目でわかりやすいのと、パリッとしたオフィスの雰囲気が私は好きだった。

だけど新しいオフィスに移転してからはフリーアドレスになった。座席は決まっておらず、各部署にいくつも並べられた広々としたデスクの好きな場所でパソコンや資料を携えて仕事をするのだ。

近未来的な洗練された広いオフィスには観葉植物なども置かれており、癒しの空間も演出されていた。

「これじゃあ、誰がどこにいるのかわかんないじゃん」

当初、そんなことを思っていた時期が私にもありました。

だけど出社しているのか外出しているのか、はたまたお休みなのかは社内共通システムのスケジュールを確認すれば一目瞭然だし、わざわざ出向かなくてもチャットで会話ができるし、後は大体みんな座る席が決まってきているし……フリーアドレスに慣れるのは早かった。

でも、新しく入社したスタッフたちは顔や名前を覚えるのが大変で苦労しているのがよくわかった。

だから私も誰が誰だかわからなくて困っているスタッフを見かけたら、「〇〇さんは一番右端のテーブルの真ん中に座っている人ですよ」などと、なるべく声をかけるよう努めていた。
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