【完】 瞬く星に願いをかけて
第7話 「忍び寄る影」
その後、私はひとりで帰路についた。
喫茶店で交わした先輩との会話は何一つ覚えていない。
しかし、人生で1位、2位を争うほどの恥ずかしい出来事の連続は、私の記憶のフィルムにしっかり残されている。
きっと、一生忘れられない。
まさか、修正前のデータで印刷しちゃうなんて。
次に先輩と会う時、どんな顔をすればいいの……
とぼとぼと家に向かって足を進めていく。
ああ、いつもよりかなり遠く感じる。
今なら、死体探しのために線路を歩き続けた少年たちの苦労が分かる気がする。
それにしても、今日はいつもより人が少ない。平日だからかな?
6時を少し過ぎた夕焼け色の住宅街は、静寂に包まれている。
近くの公園からも、ボールや鬼ごっこで遊ぶ子どもの声が聞こえない。
私の歩く足音だけが――
「……?」
その時、後ろからコツっと音がして、思わず振り返った。
今……後ろに誰かいた?
しかし、私の影が伸びているだけで、もう1つの人影はない。
気のせいだと思い、歩き始める。
やはり聞こえる。
足を止めると、背後のもう1つの音もピタリと止まった。
もしかして、先輩?
いや、先輩はこんなことするような人じゃない。
だとしたら、私の友達?
でも、今日は課題をやり忘れたって、居残りさせられていたはず……
急に身体の奥底から湧き上がって来る恐怖が私を襲う。
背筋が凍り、冷や汗が吹き出した。
私はすぐにこの場から逃れようと走りだす。
すると、もう一つの足音もぴったりとついてくる。
ど、どうしよう……これって、ストーカー?
警察に電話……ってすぐに対応してくれるわけないよね。
初めてのことに、どうすればいいか分からなくなる。
とにかく、冷静にならなくちゃ……お、落ち着け私。
足は止めちゃダメ。すぐに人気のある方へ……
気持ち悪さと恐怖でいっぱいになった私は、用もないのに近くのコンビニへと飛び込んだ。
店員さんの「しゃっせ~」と、やる気のない挨拶に、凄まじい安堵感を覚える。
「はぁ……はぁ……」
外をキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認する。
だ、大丈夫かな。
店内を見回し、時間が過ぎるのを待つ。
飲み物とか買えば……
「……っ!?」
その時、スイーツの棚に視線を移すと、私の目にとんでもないものが飛び込んできた。
き、期間限定……
こんなの見ちゃったら……思わず手が伸びる。
でも、今月はダメ。厳しいんだから。
私の心の中で、天使と悪魔が戦争を繰り広げる。
誘惑……いや、本能には抗えなかった。
不必要な買い物をしてから店を出ると、もう1つの足音は消えていた。
影も見えない。
なんだったんだろうか……