恋とバグは仕様です。 ~営業スマイルで喧嘩して、恋に落ちるまで~



02|“恋愛AI開発”という鬼門

 そんな彼らの前に、ある日とんでもないミッションが降ってきた。

「──というわけで、来期の目玉は“恋愛シミュレーションAI”になります!」

 開発部長がプレゼン資料をスライドさせながら、誇らしげに言った。

 「感情データと行動選択を学習して進化する、次世代恋愛AIアプリ」
 ──それが新プロジェクト『Virtual Pair』の概要だった。

「で、その仮想恋人役を演じるテスターを……現場のエンジニアが?」

 凛が声を落として尋ねると、部長はにっこり。

「うん、凛ちゃんと朝倉くんでやってほしい。君たち、営業スマイルが超自然だし、社内でも“理想の仕事カップル”って評判だし?」

「「……はい?」」

 凛と遥人の声が、ハモった。

「ま、あくまでロールプレイだから。業務時間内にちゃんと、恋人としての自然な会話とリアクションを記録する。それをAIに学習させる。簡単でしょ?」

「いや、えっと、感情ログを取るということは……」
「会話中の表情や声のトーン、ボディランゲージも解析対象ってことか……」

「そういうこと! 二人の普段のやり取り、すごく自然でね? ちょっとトゲはあるけど、むしろリアル! AIの訓練には最適だよ~!」

 ──部長の言葉が、棘のように突き刺さる。

 “自然”──
 それはつまり、彼らの営業スマイルでの舌戦が、他人には「本物のカップルのイチャつき」に見えていたということ。

「……やりましょうか。プロジェクトのために」
「──当然だな。仕事だからな。あくまで仕様通りに」

 笑顔を貼りつけたまま、二人はうなずいた。

 だが、その瞬間から社内では「白河さんと朝倉さん、ついに!?」「やっぱりそうだと思ってた!」と、浮足立つ声が飛び交い始める。



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