非日常のワンシーン
非日常のワンシーン
「別れて欲しいんだよね……」


映画の音が響く部屋の中、唐突に男は言った。
一番良い戦闘シーンだというのに、私は思わず隣に寝転んで見ている男に振り返る。
振り返った私と私を見ている男の目が合ったが、言葉が出ずにもう一度頭の中で男の言葉を租借する。
ふと、男から目を反らして未だに回り続けている映画を見るが、必死に戦っている男達の描写の中の何処にも、恋愛を仄めかす要素は無い。

男は目を逸らし映画を見ながら考え込んでいる私を不思議に思ったのだろうが、直ぐにその理由に思い至ったのだろう。


「映画じゃなくて、俺とお前の話なんだけど」


態々解りやすく、自分と私を交互に指差して教えてくれる。


「何で?」
「卒業したら、引っ越すから会えなくなる」


未だに男の視線は私に向いている。
私がどう答えるのか不安なのか、少し窺うようなその目線。


そもそも聞きたかったのはどうして別れたいと思ったのか、ではない。
どうしてそんなことになっているのか、だ。
私が思い出す限り、私と男がそんな関係になったことは一度としてない筈だ。
いや、少なくとも私の中では無い筈だった。

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