あなたの子ですが、内緒で育てます
 侍女に渡したが、その侍女の目が心なしか、哀れんでいるように見えた。
 いや……、俺の気のせいだろう。

「セレーネ様からのお返事です」
「うむ。寄越せ」

 セレーネの返事を受け取る。
 さっきより、小さなメモ紙になっていた。
 文字数も減っている。

『警備を増やします』

「なぜだ!?」

 まったく伝わっていないようだ。
 セレーネが駄目なら、息子だ!
 部屋を出て、ルチアノを探す。

「ルチアノ……」

 声をかけようとしたその時、ルチアノのそばに、ザカリアの姿が見えた。

「ザカリア様は船に乗ったことはありますか?」
「ある」
「いいなぁ。ぼくも乗ってみたいです」
「まず、泳ぎを覚えてからだ」
「まだ泳げません……」
「来年の夏、泳ぐ練習をしよう」
「はいっ」

 ルチアノとザカリアは、まるで親子のようだった。
 心から信頼されているのが、目に見えてわかる。

「船を造っているところも見に行くか。見ておいて損はない」
「わぁ、船! 行きたいです!」

 弟は人に興味がないのだと思っていた。
 人間嫌いだから、王宮にやってこないのだと……
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