あなたの子ですが、内緒で育てます
 幼い時、王宮から出ていった時のザカリアは、表情ひとつ変えず、暗い顔で大人たちに囲まれていたのを覚えている。
 俺を守るため、王宮の人間はザカリアを捨てたのだ。
 だが、今、捨てられたのは――

「ザカリア様、ぼくが王さまになっても、そばにいてくれますよね?」
「ああ。ルチアノが望むなら」
「よかった! 不安だったんです。ぼく、まだ小さいでしょう? お母様を守れないから」

 ――俺だ。
 ルチアノは、俺からセレーネを守ろうとしているのか。
 生まれて初めて自分から、誰かに信頼されたいと思った。

「おい! ルチアノ!」

 ルチアノがザカリアではなく、俺を見る。
 そうだ!
 信頼がないのなら、まず、信頼関係を築くところから始めればいいのだ!

「なにか欲しいものはないか? なんでも買ってやろう」

 きょとんとした顔で、突然現れた俺を見る。

「ぼく? ぼくですか? 買ってほしいものは、なにもないです」

 セレーネに厳しく言われているのか、どうやら遠慮して、欲しいものを言わないつもりのようだ。
 まったく、あいつは厳しすぎる。

「ルチアノ。買ってほしいものがなければ、兄上に頼みたいことでもいいんだぞ?」

 ザカリアが俺を助けるとは珍しい。
 しかし、ナイスアシストだ。

「俺がなんでも叶えてやろう」
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