あなたの子ですが、内緒で育てます
 自分が罪に問われたくないため、絶対に口には出さない。
 ルドヴィク様は、わたくしを助けたのではなかった。
 わたくしのロゼッテを思う気持ちを利用し、ザカリア様を殺害させるためだけに、牢から連れ出したのだ。

「もしもの話だがな。お前になにかあれば、ロゼッテのことは、俺が面倒をみてやろう」
「ロゼッテの面倒を……」
「もちろん。お前がいなくなったらの話だが」

 ――ルドヴィク様は、最後までわたくしを愛してくださらなかった。

 絶望の中、渡された短剣と睡眠薬を受け取った。
 ザカリア様を殺したなら、わたくしは死刑になるだろう。
 それでも、ロゼッテだけは守りたい。

「わかりました……。ルドヴィク様。最後にワインで乾杯しましょう。わたくしがワインを選んでも?」
「もちろんだ。お前の好きな酒を選んでいいぞ」
「ええ」

 わたくしが別れの日に選んだワインは、王妃になった年のもの。
 ルドヴィク様が二度と飲まないであろう年のワインを選び、乾杯した。
 赤い血のようなワインを飲み干し、酒の棚に瓶を戻す。
 並べた瓶を見つめた。
 セレーネが王妃になった年のワイン、わたくしが王妃になった年のワイン。
 ルドヴィク様は、わたくしが引き受けることがわかっていて、これを用意しておいたのだ。

 ――ルドヴィク様の中では、わたくしの死刑は決まっているのね。
 
「さようなら、ルドヴィク様」

 ルドヴィク様に別れを告げ、ザカリア様を殺すため、王宮へ戻ったのだった。
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