あなたの子ですが、内緒で育てます
 ジュストは頑として動こうとしないルチアノの耳に、なにか囁いた。

「あっ! そういうお話だった?」
「そうですよ」

 ちらちらとルチアノは意味ありげに、私とザカリア様を見る。

「では、失礼します」
「頑張ってね! ザカリア様!」

 ジュストはルチアノを連れ、去っていった。
 
「え? 頑張る? 頑張るって、いったいなにを?」
「いや、なんだろうな」

 ザカリア様は小さな声で『ジュストめ……』と言って、ため息をついた。

「庭へ出よう」
「はい」

 侍女たちや兵士たちに聞かれては、まずいことなのか、ザカリア様と共に庭園へ向かう。
 ルチアノが誕生した日を思い出させる夕暮れ色に染まる空。
 夕暮れの光に染まる土の上に立った。

「セレーネ。兄上は心臓発作で倒れたのではない。そして、医者の話によると、回復しても以前のように、体を動かすことができなくなるだろうと言われた」
「はい……」

 心のどこかで、心臓発作ではないだろうと思っていた。
 ザカリア様は淡々と、起きたことだけを語った。
 ルドヴィク様が飲んだワインには、毒が入っていたこと。
 大臣たちの考えと、王家のあり方。
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