あなたの子ですが、内緒で育てます
 侯爵家に戻れない私が、ドレスやアクセサリーを売って換金し、どこかへ逃げると、デルフィーナは考えたようだ。
 
「逃げるなんて……」

 ――そのうち、ルドヴィク様の愛情が戻るかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きながら、ぼんやり窓を眺めた。
 窓ガラスが歪み、また幻が見えた。

『セレーネはジュストを使って。わたくしを殺すかもしれません!』
『しかし、セレーネは部屋から出ず、おとなしくしているではないか』
『陛下はどちらが大切なの!?』
『もちろん、デルフィーナだ』
 
 ルドヴィク様は迷わず答える。
 幻なのに胸が痛む。

『ルドヴィク様より、ザカリア様が大事だとおっしゃったのよ。ジュストを捕らえて、罰を受けさせましょう』
『そうだな。王を軽んじることは許さん』

 ――幻が消えた。
 ほんの一瞬のことで、それが私が作り出した幻影なのか、夢なのか、判別しにくいものだった。
 けれど、嫌な予感がする。

「ジュスト、逃げて」
「いかがされましたか?」
「王宮にいては危険だわ。デルフィーナは従わなかったあなたに、危害を加えようとするでしょう」

 ジュストは驚き、うなずいた。
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