あなたの子ですが、内緒で育てます
「行方をくらませたセレーネが、ザカリアの領地にいるという証拠がない」

 ――ルドヴィク様はセレーネに未練がある……?

 探しだすことに消極的だった。
 心を読みたいけれど、母体であるからか、その力は不安定だ。
 読みたい時に、心が読めるわけではなかった。
 けれど、わたくしは不利にならないよう、それを隠している。

「わかりました。使者を送りますわ」
「うむ」

 どうやら、ルドヴィク様は、セレーネが自分の目の届かないところでなら、死のうが生きようが、どうなっていても構わないと思っているようだ。
 むしろ、王宮からいなくなり、罪悪感を感じずに済んでよかったくらいだろう。
 わたくしが離れても、ルドヴィク様は気にする様子もなく、楽隊が奏でる音楽を聴いていた。

「陛下から許可をいただいたわ。腕のいい者たちを集めて! 追っ手……、いえ、使者たちはセレーネをなにがなんでも探し出しなさい!」

 もちろん、使者とは名ばかり。
 抵抗するセレーネを力ずくでも、連れて帰れる人間を選んだ。

「怪我をさせても構わないわ。セレーネをわたくしの前に、連れてくるのよ!」

 命じられ、戸惑っている兵士たちに、追い打ちをかける。

「逆らったら、あなた方の家がどうなるかわかっているわよね?」

『次の王がいる』と言えば、逆らう者は誰一人としていなかった。
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