あなたの子ですが、内緒で育てます
「ザカリア様……。ザカリア様が捕まれば、誘拐の罪を着せられてしまいます……。私を兵士に渡せば、今ならまだ……」
「王宮から連れ出した時点で、罪に問われる。今さらだ。助けてほしいと頼んだのは、お前だ」

 ザカリア様はまったく動じなかった。

「そう……ですけれど……」

 デルフィーナの執念が恐ろしい。
 きっと、私を殺すまで追ってくる。

「捕まればの話だ。それより、具合が悪そうだ。医者を呼ぼう」
 
 ――安心していいのだろうか?

 そう思った時、ふわふわして立っていられなくなった。
 めまいと立ちくらみがひどい。

「おい、どうした……」

 ザカリア様の動揺する声が聞こえる。
 さっきまで、顔色ひとつ変えなかったのに。
 平気ですと言おうとしたのに、顔をあげた瞬間、意識が落ちた。

 ――ザカリア様も、あんな不安そうな顔をなさるのね。

 そう思いながら。
 この後、私はなかなか目を開けられなかった。
 意識があやふやな中で、聞こえた言葉。
 それは――

「ご懐妊されております」

 ――懐妊?

「子供を身籠っておられます」

 混濁する意識の中、ルドヴィク様の子を身籠っていることを知ったのだった。
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