あなたの子ですが、内緒で育てます
「兄上はあの性格だ。王妃さえ、しっかりしていれば、意見を聞いて、ただそれを兄上が命じるだけでよかった」
「私が選ばれたのは、誰でもいいというわけではなかったのですね」
「当たり前だ」

 ザカリア様は表情を険しくさせた。

「ジュストの報告どおり、通行許可証がなくても通れたが、王都の状態は心配だな」
「ザカリア様。教会経由で、炊き出しだけでもできませんか?」
「……それが、銀髪を切った理由か」

 私の短くなった髪を痛ましそうに見つめる。

「仕方ありませんわ。今、私にできることはこれくらいですから」
「なにかできないか、考えておく。兄上は自分の領地に、俺が関わることを嫌う」
「ありがとうございます」

 ザカリア様は愛想のいいほうではないけど、引き受けたことは最後までやり通してくれる人だ。
 私をこうして、王都から連れ出してくれたのだから、信用できる。

「追っ手に見つかる前に、領地へ入るぞ」
「はい」

 この時、私は決意した。
 荒れた王都、貧しい人々、無関心なルドヴィク様とデルフィーナ。
 デルフィーナの子が王位につけば、さらにひどい状況になるだろう。
 だから、私は王の子を産む。
 そして、デルフィーナに対抗するだけの力を持ち、ふたたび、王宮に戻ることを決め、足を踏み出した―― 
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