あなたの子ですが、内緒で育てます
 ジュストは、俺の乳母の子で、幼い頃からの付き合い。
 信頼できる男だ。
 そういう理由から、俺が行きたくもない王宮へ出向き、会いたくもない兄と顔を合わせたわけだ。
 そして、セレーネを救出し、さっさと領地に戻る予定だったが――

「ご夫婦一組様ですねっ!」
「一泊のお泊りでーす」

 王都を出て、立ち寄った町では、こんなやり取りをすること数回。
 最初の方こそ、気まずい思いをしていたが、今はもう慣れた。

「すみません。私のせいで、時間がかかってしまって……」
「いや、妊婦を長時間、歩かせるわけにもいかない」

 馬車に揺られるのもよくないとか。
 そのため、なかなか領地に入れずにいた。
 正直、俺は妊婦の気持ちがわからない。
 セレーネは吐き気がするのか、青白い顔をして具合が悪そうだ。

「なにか、口当たりのいい食べ物を買ってこよう」
「いえ、平気です。ザカリア様もお疲れでしょう? お休みになられてください」
「駄目だ。朝からなにも食べていない。馬車に乗るから、吐かないよう食べなかったのだろう?」
 
 セレーネは申し訳なさそうにうつむいた。
 彼女は、俺が思っていた印象とかけ離れていた。
 侯爵令嬢として生まれ、妖精のように美しい姿、お妃候補たちの中でも抜きんでた能力。
 周囲に望まれ、王妃になったと聞いていたから、もっと偉そうな態度をとる女性かと思っていた。
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